参議院議長
テンプレート:政治の役職 参議院議長(さんぎいんぎちょう)は、参議院における議事を整理し、参議院を代表する役職。
概要
参議院議員の中から1名、議院によって選出される。衆議院を代表する衆議院議長とともに、立法府を司る三権の長である。
参議院議長の職については、国会法(昭和22年4月30日法律第79号)(以下、本項において「法」という)により両議院に共通した規定と、参議院規則(昭和22年6月28日議決)(以下、本項において「規則」という)による参議院独自の規定とがある。
選出と職務の代行
参議院議長の選挙は、議会召集当日に議長が無い場合、集会した議員が総議員の3分の1に達した後、事務総長による議長の職務代行のもとで行われる(法第6条・第7条、規則第4条)。議長選挙は単記無名投票である(規則第4条第2項)。過半数を得たものを当選人とする。投票の過半数を得た者がないときは投票数上位2人について決選投票を行う。2人の得票数が同じ時はクジで決定する(規則第9条)。
議長に事故がある場合(議事が長時間となり議長が休息をとる場合を含む)又は議長が欠けた場合は、議長の職務は副議長が行う(法第21条)。副議長も事故がある場合は、仮議長を選挙又は議院の委任により議長において選任して議長の職務を行わせる。副議長又は仮議長が議長の職務を行う場合、自称(例:「議長は○○委員長に○○君を指名します」)・他称は単に「議長」となり、「副議長は」「副議長において」のような呼び方はしないのが慣例である。
本会議場の壇上中央には議長席があり、議長席から見て右脇(議席から見て左)には事務総長席があるが、副議長席といったものはなく、議長に事故等がない限り副議長は自らの議席で審議に参加する。この場合、慣例・先例により議長が投票(賛否表明)をしない案件(例:参議院における内閣総理大臣指名選挙)であっても、議席の副議長は他の議員と同様採決に参加する。
参議院議長は参議院第一会派から選出される慣例になっている。また、参議院通常選挙で半数改選されると、議長は非改選議員であっても再選されてもされなくても、一度辞任することが慣例となっている。
設立当初の参議院は政党に所属しない議員が多く、議長がリーダーシップを発揮することも多かったが、参議院の政党化傾向に伴い議事運営の主導権が政党に移っていった。同時期に正副議長は院内会派を離脱し無所属となる慣例が成立した。
2007年の第21回参議院議員通常選挙では、民主党が大勝して参議院の第一党となった。このため、1956年以来自民党が持っていた参議院議長のポストは初めて自民党を離れ民主党へ移った。
憲法上はともかく、参議院議員が内閣総理大臣に選出される可能性は事実上皆無とみなされているため、参議院議員の最高ポストといえる。
任期・待遇
正副議長の任期は参議院議員の任期と同じであるが(法第18条)、実際には3年毎に行われる参議院議員通常選挙直後の国会冒頭において正副議長は辞任し、後任を選出することが慣例となっている。
日本の立法府である国会は、衆議院と参議院から構成するとされており(日本国憲法第42条)、参議院議長は衆議院議長とともに立法府の長である。このため歳費は他の議員よりも多額であり、行政府の内閣総理大臣や司法府の最高裁判所長官とほぼ同額となる。また、参議院議長・副議長はそれぞれ公邸へ入居することができる。ただし、国会の開会式は衆議院議長が主宰することになっており(法第9条)、参議院議長が主宰するのは、衆議院議長に事故(病気療養など)がある場合に限られる。
権限
- 国会閉会中における議員辞職の許可(法第107条但書き)
- 議員の議席位置の指定(規則第14条)
- 委員の選任および辞任の許可(規則第30条)
- 議院会議中における委員会開催の許可(規則第37条但書き)
- 公聴会開催の承認(規則第62条)
- 会議開始時刻の変更(規則第81条)
- 午後4時を過ぎた場合の延会宣告(規則第82条)
- 発言通告をしない者が発言する場合の発言許可(規則第96条)
- 自席で発言している者に対する演壇での発言許可(規則第99条)
- 質疑終局動議の決定(規則第111条第2項)
- 質問主意書の会議録掲載における簡明化の指定(規則第155条)
- 議員の異議申し立てによる会議録の訂正の決定(規則第158条第2項)
- 特に緊急を要する場合の審査又は調査のための委員派遣の決定(規則第180条但書き)
- 7日を超えない議員請暇の許可(規則第187条)
- 議場又は委員会議室に入る者のつえ等携帯の許可(規則第209条但書き)
- 演壇登壇の許可(規則第213条)
- 振鈴を鳴らすことによって全ての者を沈黙させること(規則第214条)
- 全ての紀律についての問題の決定(規則第216条)
- 議事堂内の警察権(法第法第14章(第114条~118条の2)、規則第16章第2節(第217条~第219条))
- 議場内部における現行犯人拘束の命令(規則第219条但書き)
- 傍聴人の身体検査(規則第224条)
- 取締のための傍聴人数の制限(規則第226条)
- 議場の秩序を乱した議員に対する退席命令(法第116条後段、規則第232条)
- 可否同数時の決裁権(議長決裁権)(憲法第56条第2項、法第92条第2項(両院協議会))
歴代参議院議長
参議院議長 | ||||||
代 | 氏名 | 就任日 | 退任日(退任理由)※ | 出身党派 | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 松平恒雄 | 1947年(和暦??年)5月20日 | 1949年(和暦??年)11月14日(亡) | 緑風会 | ||
2 | 50px | 佐藤尚武 | 1949年(和暦??年)11月15日 | 1950年(和暦??年)7月12日(慣) | 緑風会 | |
3 | 1950年(和暦??年)7月12日 | 1953年(和暦??年)5月2日(満) | ||||
4 | 50px | 河井彌八 | 1953年(和暦??年)5月19日 | 1956年(和暦??年)4月3日(辞) | 緑風会 | |
5 | 松野鶴平 | 1956年(和暦??年)4月3日 | 1956年(和暦??年)11月13日(慣) | 自由民主党 (旧吉田派) |
||
6 | 1956年(和暦??年)11月13日 | 1959年(和暦??年)5月2日(満) | ||||
7 | 1959年(和暦??年)6月23日 | 1962年(和暦??年)8月6日(慣) | ||||
8 | 50px | 重宗雄三 | 1962年(和暦??年)8月6日 | 1965年(和暦??年)7月30日(慣) | 自由民主党 (佐藤派) |
|
9 | 1965年(和暦??年)7月30日 | 1968年(和暦??年)7月7日(満) | ||||
10 | 1968年(和暦??年)8月3日 | 1971年(和暦??年)7月17日(慣) | ||||
11 | 河野謙三 | 1971年(和暦??年)7月17日 | 1974年(和暦??年)7月26日(慣) | 自由民主党 (中曽根派) |
議長就任後、党籍離脱。 | |
12 | 1974年(和暦??年)7月26日 | 1977年(和暦??年)7月3日(満) | ||||
13 | 安井謙 | 1977年(和暦??年)7月28日 | 1980年(和暦??年)7月7日(満) | 自由民主党 (無派閥) |
||
14 | 徳永正利 | 1980年(和暦??年)7月17日 | 1983年(和暦??年)7月9日(満) | 自由民主党 (田中派) |
||
15 | 木村睦男 | 1983年(和暦??年)7月18日 | 1986年(和暦??年)7月22日(慣) | 自由民主党 (田中派) |
||
16 | 藤田正明 | 1986年(和暦??年)7月22日 | 1988年(和暦??年)9月30日(辞) | 自由民主党 (宮澤派) |
||
17 | 土屋義彦 | 1988年(和暦??年)9月30日 | 1989年(和暦??年)7月9日(満) | 自由民主党 (安倍派) |
||
18 | 1989年(和暦??年)8月7日 | 1991年(和暦??年)10月4日(辞) | ||||
19 | 長田裕二 | 1991年(和暦??年)10月4日 | 1992年(和暦??年)7月9日(満) | 自由民主党 (竹下派) |
||
20 | 原文兵衛 | 1992年(和暦??年)8月7日 | 1995年(和暦??年)7月22日(満) | 自由民主党 (三塚派) |
||
21 | 斎藤十朗 | 1995年(和暦??年)8月4日 | 1998年(和暦??年)7月25日(満) | 自由民主党 (小渕派) |
||
22 | 1998年(和暦??年)8月4日 | 2000年(和暦??年)10月19日(辞) | ||||
23 | 井上裕 | 2000年(和暦??年)10月19日 | 2001年(和暦??年)8月7日(慣) | 自由民主党 (森派) |
||
24 | 2001年(和暦??年)8月7日 | 2002年(和暦??年)4月22日(辞) | ||||
25 | 倉田寛之 | 2002年(和暦??年)4月22日 | 2004年(和暦??年)7月30日(慣) | 自由民主党 江藤・亀井派 |
||
26 | 扇千景 | 2004年(和暦??年)7月30日 | 2007年(和暦??年)7月28日(満) | 自由民主党 (二階グループ) |
||
27 | 江田五月 | 2007年(和暦??年)8月7日 | 現職 | 民主党 (菅グループ) |
||
※ (満)は議員任期満了による退任、(慣)は半数改選による慣例的辞任、(辞)は一身上その他の理由による辞任、(亡)は死亡。 |
歴代の参議院議長(貴族院議長) |
---|
貴族院議長(帝国議会) |
伊藤博文 - 蜂須賀茂韶 - 近衞篤麿 - 徳川家逹 - 近衞文麿 - 松平頼壽 - 徳川圀順 - 徳川家正 |
参議院議長(国会) |
松平恒雄 - 佐藤尚武 - 河井彌八 - 松野鶴平 - 重宗雄三 - 河野謙三 - 安井謙 - 徳永正利 - 木村睦男 - 藤田正明 - 土屋義彦 - 長田裕二 - 原文兵衛 - 斎藤十朗 - 井上裕 - 倉田寛之 - 扇千景 - 江田五月 |
議院 |
貴族院 - 参議院 |
歴代参議院副議長
(満)は議員任期満了による退任、(慣)は半数改選による慣例的辞任、(辞)は一身上その他の理由による辞任、(閣)は入閣に伴う自然退任、(亡)は死亡、(追)は公職追放による失職
参議院副議長 | |||
---|---|---|---|
1 | 松本治一郎 | 1947年5月20日-1949年2月24日(追) | 日本社会党 |
2 | 松嶋喜作 | 1949年3月26日-1950年5月2日(満) | 民主自由党 |
3 | 三木治朗 | 1950年7月12日-1953年5月2日(満) | 日本社会党 |
4 | 重宗雄三 | 1953年5月19日-1956年5月9日(辞) | 自由党 |
5 | 寺尾豊 | 1956年5月9日-1956年11月13日(慣) | 自由民主党 |
6 | 1956年11月13日-1958年6月12日(閣) | ||
7 | 平井太郎 | 1958年6月16日-1959年6月23日(慣) | 自由民主党 |
8 | 1959年6月23日-1962年7月7日(満) | ||
9 | 重政庸徳 | 1962年8月6日-1965年6月1日(満) | 自由民主党 |
10 | 河野謙三 | 1965年7月30日-1968年8月3日(慣) | 自由民主党 |
11 | 安井謙 | 1968年8月3日-1971年7月17日(慣) | 自由民主党 |
12 | 森八三一 | 1971年7月17日-1974年7月7日(満) | 自由民主党 |
13 | 前田佳都男 | 1974年7月27日-1977年7月28日(慣) | 元自由民主党 |
14 | 加瀬完 | 1977年7月28日-1979年8月30日(辞) | 元日本社会党 |
15 | 秋山長造 | 1979年8月30日-1980年7月17日(慣) | 元日本社会党 |
16 | 1980年7月17日-1983年7月9日(満) | ||
17 | 阿具根登 | 1983年7月18日-1986年7月7日(満) | 元日本社会党 |
18 | 瀬谷英行 | 1986年7月22日-1989年8月7日(慣) | 元日本社会党 |
19 | 小野明 | 1989年8月7日-1990年4月19日(亡) | 元日本社会党 |
20 | 小山一平 | 1990年4月25日-1992年7月7日(満) | 元日本社会党 |
21 | 赤桐操 | 1992年8月7日-1995年8月4日(慣) | 元日本社会党 |
22 | 松尾官平 | 1995年8月4日-1998年7月25日(満) | 元新進党 |
23 | 菅野久光 | 1998年7月30日-2001年7月22日(満) | 元民主党 |
24 | 本岡昭次 | 2001年8月7日-2004年7月25日(満) | 元民主党 |
25 | 角田義一 | 2004年7月30日-2007年1月30日(辞) | 元民主党 |
26 | 今泉昭 | 2007年1月30日-2007年7月28日(満) | 元民主党 |
27 | 山東昭子 | 2007年8月7日- | 元自由民主党・高村派 |
参議院仮議長
参議院仮議長 | |||
---|---|---|---|
木檜三四郎 | 1947年10月13日 | 議長・副議長事故(皇室会議等出席)の間 | 議長に指名一任 |
黒田英雄 | 1950年3月31日 | 副議長事故(欠席)につき一日限り | 議長に指名一任 |
小林英三 | 1954年1月27日-1954年2月20日頃 | 副議長不在(訪米)の間を通じて | 議長に指名一任 |
中川以良 | 1956年5月30日 | 議長事故(欠席)につき副議長寺尾豊不信任決議案審議の間 | 投票により選出(201票中133票) |
竹山裕 | 2004年6月5日 | 副議長事故(欠席)につき議長倉田寛之不信任決議案審議の間 | 投票により選出(149票中129票) |
※このほか、1956年6月2日、議長事故(病気)につき副議長寺尾豊不信任決議案審議のため仮議長を選挙する手続がとられたが、投票途中に議長松野鶴平が出席し、仮議長の選挙は必要がなくなった旨を宣告した例がある。
その他
- 議長による投票時間の制限
衆議院規則には議長権限で記名投票の投票時間を制限できることが明記されているが、参議院規則には同様の規定が明記されていない。しかし、1998年8月12日に荒木清寛法務委員長解任決議案において、野党議員が通信傍受法案など組織犯罪対策三法案阻止を目的に牛歩戦術に出た時、斎藤十朗議長が議長権限で投票時間を制限した。
- 副議長による散会宣言の無効
2004年6月5日、倉田寛之議長不信任決議案審議のため議長席に着いた本岡昭次副議長が散会宣言を行った。副議長は民主党出身であり、年金関連法案の廃案を目的としていた民主党の意向によるものであった。しかし、参議院規則では散会は議事日程に記載した案件の議事を終った時に限っているため、事務総長は議事日程に記載した案件を終了しておらず散会は無効と判断、副議長にその旨を伝えたが、その制止にも関わらず、副議長と野党議員は議場から退席した。その後、衛視に守られながら登場した倉田議長が再び議長席に上がり、散会の無効を宣言した。
倉田議長は、議長不信任案が議題となっており、自身に対する議案であるため議長を一時的に務めることができず、また副議長も退席しているため、川村良典参議院事務総長が議長職を代行して仮議長の選挙を実施し、竹山裕が仮議長に就任。同仮議長の議事の元で議長不信任案の採決が行われ、否決された。否決後は倉田議長が議長職に復帰して議事を進め、年金関連法案は可決された。
中立であるべき副議長が民主党の意向によって規則上認められない散会宣言を行ったこと、不信任案が提出されている議長が一時的に議事進行を行ったこと、議院運営委員会による審議がないまま本会議の審議を続行したこと等、様々な問題を残した。
- 皇室会議
皇室典範第28条により、参議院議長、副議長は皇室会議の議員として指定されている。ただし、皇室会議議員としての職務は参議院議長、副議長の職域とは関係ない。