馬力
馬力(ばりき)は仕事率、工率の単位である。名前の通り、元々は馬一頭が発揮する仕事率を1馬力と定めたものであった。今日では、ヤード・ポンド法に基づく英馬力、メートル法に基づく仏馬力を始めとして、各種の馬力の定義がある。国際単位系 (SI) における仕事率、工率の単位はワット (W) であり、馬力は併用単位にもなっていない。
1馬力というのは輓馬(荷を引く馬)が継続的に荷を引っ張る際の仕事率を基準にしており、単純に「馬の最高出力=1馬力」を表すわけではない[1]。人間でも100メートル走などにおける瞬間的な最大出力では1馬力程度の力を出すことができる。
英馬力
馬力という単位は、ジェームズ・ワットが蒸気機関の能力を示すのに、標準的な荷役馬1頭のする仕事を基準としたことに始まる。これが英馬力の起源で、数値的には「1秒間につき550重量ポンド (lbf) の重量を1フィート (ft) 動かすときの仕事率」(550 lbf·ft/s) となる。
こういう数値になった経緯は次の通り。ウマの牽引力の平均が180重量ポンド、1時間ウマに牽引させ進んだ距離が10 852フィート、したがって1時間当たりの仕事率は、180×10 852=1953 360フィート・重量ポンド/時である。そして1分当たりは、1953 360÷60=32 556フィート・重量ポンド/分となる。この数値を33 000フィート・重量ポンド/分と丸めた上で、1秒当たりを算出すると550フィート・重量ポンド/秒となる。
ワットで表すと、1英馬力は約745.700ワットである。イギリスの法令上の正確な換算値は、1英馬力 = (正確に)745.699 871 582 270 22 ワットである。この17桁もの数値は、550フィート・重量ポンド/秒 = 550×0.3048(m/フィート)×0.453 592 37(kg/ポンド)×重力加速度9.806 65 (m/s2) を、桁を丸めることなく算出したものである。
英馬力は、英語の「horse power」の頭文字をとってHPという記号で表される。hpと小文字で書くこともあり、HPを合字にした㏋ (U+33CB、JIS X 0213 1-3-62) も使われる。また、出力を測定するダイナモメータが制動力(ブレーキ力)を利用して測定されたことから、「brake horse power」の頭文字をとったbhpが使われることがあり、数値はHP=bhpとなる。同様に、エンジンやタービンの軸出力(軸馬力)として英語の「shaft horse power」の頭文字をとったshpが使われることもある。
近年では後述のPSやkwが使われることが多く、HP,bhpは主にアメリカとイギリスの自動車メーカーで使われている。
仏馬力
仏馬力は、メートル法(重力単位系)に基づいて、英馬力の値に近づけながらも可能な限り簡素な数値によって定義したものである。メートル法がフランス発祥であることから仏馬力と呼ばれる。その定義は、「1秒間につき75重量キログラム (kgf) の重量を1メートル動かすときの仕事率」(75 kgf·m/s) となる。ワットで表すと、1仏馬力は 735.498 75 ワットである。ただし、日本の計量法では、1仏馬力= (正確に)735.5 ワットである(計量単位令第11条第2項)。
こういう数値になった経緯は、英馬力から仏馬力を決めたことにある。ft·lbf ≒ 0.013 8255であり、550フィート・重量ポンド/秒が1英馬力である。それをメートル法に換算すると 550 lbf·ft/s ≒ 76.040 225 kgf·m/sとなる。この数字をもとに、きりのいい 75 kgf·m/s がフランス馬力とされた。
このため英馬力と仏馬力は等しくなく(英馬力>仏馬力)、1 仏馬力 (PS) = 約 0.986 英馬力 (HP) である。
記号は、ドイツ語のPferdestärke(馬の力)の頭文字の、PS または ps がヨーロッパで使われるほか、表のような各国固有の記号も使われる。日本では、計量単位規則第2条第2項第2号と別表第7により馬力(仏馬力)の記号は大文字の「PS」のみが使用できる[2]。
日本における馬力の位置づけ
日本の旧計量法では、1馬力は英馬力とも仏馬力とも違い、仏馬力をベースに重力加速度を(正確に)10m/s2として計算した750ワットとしていた。これを日本馬力と呼んでいたことがある。
1999年施行の新計量法では日本馬力は廃止され、仏馬力のみを採用した。計量法附則第6条と計量単位令第11条は、「仏馬力は、内燃機関に関する取引又は証明その他の政令で定める取引又は証明(=外燃機関に関する取引又は証明)に用いる場合にあっては、当分の間、工率の法定計量単位とみなす。」とし、計量単位令第11条第2項は、1仏馬力 = (正確に)735.5ワットと定義している[3]。
これは、新計量法がSIを全面的に導入するために制定されたものであり、本来であればSI組立単位であるワットを使うべきであるが、馬力がいまだに広く使われており、これを廃止すると混乱を招くために移行措置として使用を認めているものである。今日でも、レシプロエンジンの出力表示にはキロワット (kW) とともに馬力(仏馬力)が併記されることがある。
業務用エアコンにおける馬力
日本では、エア・コンディショナー(特に業務用大型空調設備)の能力を「馬力」という単位で表現することがあるが、この「馬力」は、仏馬力とも英馬力とも全く異なるものであり[4]、計量法上は全く認められていない。
暖房と冷房とでワット数が異なるものについて同一の「馬力」として換算するなど、正式な換算式があるわけではないが、冷房能力について言えば、1馬力 = 2.8kW(= 約2409kcal/h)程度の空調能力(約8畳相当の空間を冷やす能力)である[5][6]。したがって、通常に用いられる馬力(735〜750 W )とは4倍弱の違いがある。ちなみに、業務用空調機の最も多く用いられているものは7馬力 = 18.0kW(約1500~1600kcal/h)程度である。
仕事率の具体例
- 人間=1馬力(継続的に発揮できる仕事率は0.1 - 0.2馬力程度)
- 競走馬=15 - 20馬力(継続的に発揮できる仕事率は2 - 3馬力程度)
- 四輪自動車=40 - 300馬力
- 大型トラック、大型バス=250 - 600馬力
- 新幹線=2万3200馬力(N700系電車16両編成)編成出力 305kW×56 = 17,080kW(Z・N編成)
- プロペラ機=200 - 2万馬力
- ジェット機=1万 - 7万馬力[1]
- LE-7A(ロケットエンジン)=318万馬力
出典
- ↑ 1.0 1.1 講談社1983年刊『大辞典』1,275頁
- ↑ 計量単位規則 (平成4年11月30日通商産業省令第80号)
- ↑ 計量単位令 (平成4年11月18日政令第357号)第11条第2項 「法附則第六条第二項の政令で定める仏馬力の定義は、ワットの七百三十五・五倍とする。」
- ↑ 元来は、圧縮機を動かすモーターの出力(1馬力≒750W)を示していたが、現在ではモーターの出力とエアコンの馬力とは全く一致しない。
- ↑ 空調冷暖房新旧換算表 空調機 kW⇔Kcal/h 換算表
- ↑ http://www.e-matsumura.jp/AC_kw-kcal-kansan-.html 空調冷暖房新旧換算表]
関連項目
このページはウィキペディア日本語版のコンテンツ・馬力を利用して作成されています。変更履歴はこちらです。 |