銀河系

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ファイル:Milky Way 2005.jpg
銀河系の想像図

銀河系(ぎんがけい、英語では Milky Way または大文字で始まる the Galaxy)は、私たち人類の住む地球太陽系を含む銀河で、局部銀河群に属する。以前は渦巻銀河の一種と考えられていたが、近年では棒渦巻銀河であるとする説が有力になりつつある。

地球から見えるその帯状の姿を天の川または銀漢(ぎんかん)などと呼んでいる。現在では銀河系のことを天の川銀河と呼ぶこともある。

概要

通常の渦巻銀河と同様、銀河系も数多くの恒星星間ガスなどの天体の集まりで、全質量は太陽の約6,000億~3兆倍と見積もられている。そのうち可視光などの電磁波を放出している質量の合計は 1/10 以下で、質量の大部分はダークマターであると考えられている。中心付近には比較的古い恒星からなる密度の高いバルジを持ち、それを取り巻くように若い恒星や星間物質からなる直径約8万~10万光年ディスクがある。ディスクの厚さは中心部で約15,000光年、周縁部で約1,000光年で凸レンズ状の形状を持つ。ディスクの中には明るい星や散開星団散光星雲などが多く見られる渦状腕が存在する。相対的なスケールを考えると、銀河系を直径130kmに縮めた場合、太陽系は約2mmほどの大きさになる。バルジとディスクのさらに外側には約130個の球状星団などからなる直径約25万~40万光年の球形のハロが存在する。銀河系の中心は地球から見ていて座の方向に約3万光年離れた所に位置しており、いて座Aという強い電波源がある。いて座Aの中心部には大質量ブラックホールが存在すると考えられている。

天の川は天の赤道に対してはるか北のカシオペヤ座からはるか南のみなみじゅうじ座まで達している。このことから、地球の赤道面や軌道面である黄道面が銀河面に対して大きく傾いていることが分かる。また、天の川によって天球がほぼ同じ広さの二つの半球に分けられることから、我々の太陽系は銀河面に近い位置にあることが分かる。

銀河系の絶対等級は直接測定することは不可能だが、研究者の間では約-20.5等という値が慣習的に受け入れられている。

発見

ファイル:Herschel-Galaxy.png
ハーシェルが恒星の計数観測を元に描いた銀河系

天の川が遠く離れた星々からなっているという説を最初に唱えたのはデモクリトスである。その後、1609年ガリレオ・ガリレイ望遠鏡を使って天の川を観測し、天の川が無数のの集まりであることを発見した。1755年にはイマヌエル・カントが、天の川も太陽系と同様に多くの恒星が重力によって円盤状に回転している天体であるとする説を唱えた。1788年にはウィリアム・ハーシェルが恒星の見かけの明るさを距離に対応づけることで恒星の3次元的な空間分布を求める計数観測を行い、天の川が直径を約6,000光年、厚みを約1,100光年の円盤状の構造であるとし、太陽がそのほぼ中心にあるとした。20世紀にはヤコブス・カプタインハーロー・シャプレーによってより正確な銀河系の構造が求められ、また21cm線による電波観測によって銀河系が渦巻銀河であることが明らかになった。

詳細は 銀河 を参照

年齢

銀河系の年齢は2006年現在、約136億年と見積もられている。これは宇宙自体の年齢にほぼ近い [1]

この値は2004年ESO とイタリアの研究者チームによる観測で求められた。彼らは VLT紫外線可視光線エシェル分光器を用いて球状星団 NGC 6397 の二つの恒星に含まれるベリリウムの量を初めて測定した。彼らはこのデータから、銀河系で第一世代の星々が生まれた時代とこの球状星団で第一世代の星々が生まれた時代の時間差を推定し、約2~3億年という値を得た。一方、この球状星団の恒星の年齢は約134±8億年と見積もられていることから、彼らは銀河系の年齢を136±8億年と見積もっている。

構造

ファイル:Milky Way Spiral Arms.png
銀河系の渦状腕の構造

2005年現在、銀河系はハッブル分類で SBbc に分類される棒渦巻銀河で、総質量は約6000億~3兆太陽質量であり[2][3]、約2000億~4000億個の恒星が含まれていると考えられている。

銀河系が普通の渦巻銀河でなく棒渦巻銀河であると考えられるようになったのは1980年代になってからである。2005年にスピッツァー宇宙望遠鏡によって行われた観測でもこのモデルは裏付けられており、さらに銀河系の棒構造は今まで考えられていたよりも大きいことが明らかになっている[4]

銀河系のディスクは直径約8万~10万光年と見積もられている。太陽から銀河中心までの距離は約26,000~35,000光年と見積もられている。ディスクは銀河中心では外側に膨らんでいる。

銀河系の中心には非常に大きな質量を持つコンパクトな天体が存在しており、大質量ブラックホールである可能性が高いと考えられている。現在ではほとんどの銀河が中心に大質量ブラックホールを持つと考えられている。

銀河系の質量分布は多くの銀河の場合と同様に、銀河系内の恒星の軌道速度が中心からの距離によらずほぼ同じ速度となるような質量分布を持っている。中心のバルジや外縁部を除くと、銀河系の恒星の典型的な速度は約210~240km/s である[5]。従って、典型的な恒星の軌道周期はその軌道の長さのみに単純に比例する。これは系の中心に質量のほとんどが集中している太陽系のケプラー運動のような、異なる軌道を持つ天体がその軌道に応じて異なる軌道速度を持つ場合とは大きく異なっている。

銀河系のバーは約27,000光年の長さを持ち、我々の太陽と銀河中心を結ぶ直線に対して約44±10度の角度で銀河中心を貫いている。バーは主に年齢の古い赤い星からなっている。

ファイル:Milky Way Arms-Hypothetical.png
観測データを外挿して得られた銀河系の渦状腕の構造

銀河系の各渦状腕は(他の全ての渦巻銀河と同様に)対数螺旋を描いており、そのピッチは約12度である。銀河系には銀河中心から伸びた4本の渦状腕が存在すると考えられていて、それぞれ以下の名称が付けられている(番号は右図参照)。

また、これ以外に二つの小さな腕や弧が存在する。代表的なものは以下の腕である。

銀河系のディスクは古い恒星や球状星団からなる回転楕円体のハローに取り囲まれている。ハローの直径は約25万~40万光年である[6]。ディスクにはガスや塵が含まれ、いくつかの波長では見通すことができないが、ハローにはそのような物質はほとんどない。ディスク(特に物質密度の高い渦状腕の内部)では活発な星形成が行なわれているが、ハローでは星形成はほとんど見られない。散開星団も主にディスクに存在している。

銀河系の質量のほとんどはダークマターで、約6000億~3兆太陽質量のダークハローを形成している。ダークハローは銀河中心に向かって密度が高くなっている[3]

近年の発見によって銀河系の構造についての我々の知識は広がりつつある。2005年、アンドロメダ銀河 (M31) のディスクがそれまで考えられていたよりもずっと大きく広がっていることが発見され[7]、銀河系のディスクもこれまでの推定より大きい可能性が高まっている。このことは、最近になってはくちょう腕がさらに外側に続いていることが発見されたことからも裏付けられている[8]。また、いて座矮小楕円銀河の発見と同時に、銀河の「破片」からなる帯がいて座を中心として極軌道を描いて取り巻いていることが発見され、これはこの伴銀河が銀河系との相互作用によって分裂しつつある姿であることが明らかになっている。同様におおいぬ座矮小銀河の発見に伴って、この銀河と銀河系との相互作用で生じた銀河の小片がリングとなって銀河系のディスクを取り巻いているのも見つかっている。

2006年1月9日、プリンストン大学の Mario Juric 他はスローンデジタルスカイサーベイの北天のデータから、天の川の中に現在の我々の考えている銀河系のモデルに合わない巨大な(満月の約5,000倍の面積に広がっている)淡い構造を発見したと発表している。この構造は恒星の集団で、銀河系の渦状腕の面に対してほぼ垂直に広がっている。彼らはこの構造についての可能性の高い解釈として、矮小銀河が銀河系と合体しつつある姿ではないかとしている。この銀河は暫定的に Virgo Stellar Stream と名付けられ、おとめ座の方向に約30,000光年離れた位置に存在している。

2006年5月9日には Daniel Zucker と Vasily Belokurov が、同様にスローンデジタルスカイサーベイのデータからりょうけん座うしかい座の位置に2個の矮小銀河を発見したと発表している。

ファイル:Milky Way Galaxy center Chandra.jpg
チャンドラX線観測衛星による銀河系中心部のX線モザイク画像
ファイル:Milky Way infrared.jpg
2MASSの観測データに基づく銀河系の赤外線画像

太陽の位置

太陽(及び地球・太陽系)はオリオン腕の内側の縁近く、銀河中心から7.94±0.42kpcの距離[9][10][11]にある Local Fluff と呼ばれる星間雲に属している。太陽系が属している腕と隣のペルセウス腕との距離は約6,500光年である[12]。我々の太陽系は銀河系におけるハビタブルゾーンの中にあると考えられている。

太陽が銀河系内を運動する方向を太陽向点と呼ぶ。太陽の銀河系内運動の標準的な方向はベガの近くのこと座ヘルクレス座の境界付近で、銀河中心から約86度の方向である。太陽の銀河系内の軌道はほぼ楕円軌道で、これに銀河系の渦状腕や一様でない質量分布による摂動が加わっていると考えられている。太陽は現在、この軌道上の近銀点(銀河中心に最も近づく点)の手前約 1/8 の位置にいる。

太陽系が銀河系内の軌道を一周するには約2億2500万~2億5000万年かかり[13]、太陽系が誕生してから現在までに約20~25周していると考えられている。太陽系の軌道速度は217km/sで、約1400年で1光年、8日で1天文単位進む。

銀河系の近傍

銀河系とアンドロメダ銀河、さんかく座銀河(M33)は局部銀河群の主なメンバーである。局部銀河群は約35個の銀河が集まっている銀河群で、おとめ座銀河団の一部となっている。

銀河系には局部銀河群の数多くの矮小銀河が周回している。これらの矮小銀河の中で最も大きいものが直径約20000光年の大マゼラン雲である。これに対して最も小さいりゅうこつ座矮小銀河りゅう座矮小銀河しし座II矮小銀河は直径500光年しかない。銀河系を周回するこれ以外の矮小銀河は、小マゼラン雲おおいぬ座矮小銀河(銀河系に最も近い)、いて座矮小楕円銀河(かつて最も銀河系に近いと考えられていた)、こぐま座矮小銀河ちょうこくしつ座矮小銀河ろくぶんぎ座矮小銀河ろ座矮小銀河しし座I矮小銀河である。

宇宙空間での速度

一般的な意味では、アインシュタイン特殊相対性理論によれば宇宙空間における物体の絶対速度という考え方には意味がない。特殊相対論では、宇宙には銀河系の運動の基準となるような特別な慣性系は存在しないとしている(物体の運動は常に他の物体に対する運動として特定しなければならない)。

このことを念頭において、多くの研究者は、近傍の銀河の観測位置に対して我々の銀河系は約600km/sの速度で宇宙空間を運動していると考えている。最近の推定ではこの値は130km/sから1000km/sまでばらつきがある。仮に銀河系が600km/sで運動しているとすると、我々は1日に5184万km移動しており、1年では189億km動くことになる。これは我々が毎年地球から冥王星までの距離の約4.5倍を移動していることを意味する。銀河系の運動方向はうみへび座の方向だと考えられている。

未来

銀河系の隣にあるアンドロメダ銀河は秒速約300kmの速度で我々に近づいており、従って銀河系はアンドロメダ銀河と約30~40億年後には衝突することが示唆されている。この二つの銀河が衝突しても太陽やその他の恒星が互いに衝突することはないが、衝突から約10億年後には二つの銀河は合体して1個の楕円銀河を形成すると考えられている。(ただし、1990年代後半に宇宙の膨張速度が加速度的に増加している事が確認されており、この加速膨張を考慮に入れると衝突合体の時期はいくらか延びるとする予想もある。)

参考文献

  1. 17 August 2004 - Press release, European Southern Observatory
  2. The Physics Factbook - entry citing references about the mass of the Milky Way. URL accessed March 16, 2006.
  3. 3.0 3.1 The radial velocity dispersion profile of the Galactic halo: Constraining the density profile of the dark halo of the Milky Way, Battagli et al. 2005, MNRAS, 364 (2005) 433
  4. 16 August 2005 - New Scientist article
  5. http://zebu.uoregon.edu/~imamura/123/lecture-2/mass.html
  6. Astronomy Lecture Notes
  7. 6 April 2005 - Ibata, R. et al, Astrophys. Journal, 634 (2005) 287-313
  8. http://www.solstation.com/x-objects/gal-ring.htm
  9. Reid, M. J. (1993), "The distance to the center of the Galaxy". Annual Review of Astronomy and Astrophysics, Vol. 31, p. 345-372.
  10. Eisenhauer, F., et al (2003), "A Geometric Determination of the Distance to the Galactic Center" Astrophys.J. 597 L121-L124.
  11. Horrobin, M. et al (2004), "First results from SPIFFI. I: The Galactic Center" (PDF). Astronomische Nachrichten, Vol. 325, p. 120-123.
  12. 14 January 2000 - Press release, Canadian Galactic Plan Survey
  13. http://hypertextbook.com/facts/2002/StacyLeong.shtml

関連フィクション

関連項目

外部リンク