日本語の方言
目次
概論
日本では方言という語は標準語とは異なる地方ごとの語彙や言い回しなどを指して使う場合も多いが、この様な語彙の事は「俚言」(りげん)といい、方言の一構成要素である。日本語の各方言はもっぱら口頭の表現に使われ、文字に書き表わされる事は、方言詩や民話集などの例を除けば、非常に少ない。そのため、方言は非常に失われやすい存在といえる。
山口県が観光案内に「おいでませ山口へ」と山口弁を用いた事などをきっかけに、近年は観光ポスターや駅前の歓迎塔などで方言が積極的に用いられるようになった。また、地元の子供に向けた看板が方言で書かれる事もある(画像参照)。
加えて2000年代から若者の間で(主に首都圏にて)方言が密かにブームになり、仲間の間で隠語的に使えるように俚言や方言的表現を編集した本が売れている。こうした方言が首都圏の若者の間でブームになるのは、方言を話す他の地域の言葉が持つ特有のニュアンスを取り入れたいという現れかも知れない。一方、他の地域で方言がブームになっているという話を聞く事はない。例えば、関西圏で沖縄の言葉を話すのが流行しているという話を聞く事はない。2005年12月7日には新潟放送のラジオ番組キンラジの人気コーナー「今すぐ使える新潟弁」(文法編・日常生活編)がCD化されて全国発売になるなどの状況から、方言に対する興味・関心を持つ人が以前よりも増えているといえる。
同じ方言を使う人同士の会話では、方言で携帯電話のメールを打ったり、方言でチャットをする事が多い。この様な状況の中で、ジャストシステムの日本語入力システムATOKは、方言への対応に積極的である。「ATOK 2006」から「北海道東北」、「中部北陸」、「関東」、「関西」、「中国四国」、「九州」の各方言が入力しやすいようにしたモードが用意されている。
また、時として、ヒット曲の歌詞を方言に変えた歌も作られて、ヒットする例がある(例:「DAYONE」の各方言盤、「大きな古時計」の秋田弁盤など)
言語学の分析では明らかに日本語と別系統の言語と認められるアイヌ語は、たとえ日本国内で日本語に取り囲まれて話される言語であっても、方言と呼ぶ事はしない。
沖縄県と鹿児島県奄美諸島の人々の言葉を、本州の人々の言葉と同系統(日本語族)の別言語(琉球語)とする考えもある(学説により、弥生時代頃分岐したと推定されている)が、「琉球方言」として日本語の方言に位置付ける考えもあるため、学術的にも政治的にも様々な問題・事情と関連する場合があり、判断する人によって違いがある。そもそも言語学には「同語族・同語派・同語群の同系統の別の言語」なのか、「同一言語の中の方言」なのかを客観的に区別する方法はなく、言語と方言の違いは実際には、国境の有無などのような政治的な条件や正書法の有無などにより判別されている。
方言における特徴
前述のとおり、中央集権化が強まった場合や、政策上の理由で統一された言語を公用語、あるいは共通語などに指定される場合などは、方言独自の語彙やアクセントは、世代と共に均一化されていく傾向にある。
特に現在の日本では、東京中心で全国に向けて送信あるいは配給される、テレビやラジオの番組、映画などのマスコミによって、方言が駆逐され、共通語(現在の日本には、一般にいうような厳密な意味での「標準語」は存在しない)に統一される傾向にある。ただし、現在のこの傾向が、必ずしも政治的な意図の元で行われているとはいえない。
日本の、地方の方言には「万葉言葉」または「万葉方言」等と呼ばれる方言が多く存在する(八丈方言など)。多くは大和時代から平安時代にかけ、当時の行政機構で使用されていた言葉が、中央から地方、または地方から中央へと広がったものと思われるが、その多くは万葉集などに使われる言葉に酷似している事が多い。
民族や遺伝子的観点においては、沖縄・奄美の住人とアイヌ人は近いとはいわれている。しかし、前述のとおり沖縄県の各方言・琉球方言は、日本語の方言ともいえるのに対し、アイヌ語は明らかに日本語とは系統が異なる。
古代日本において、弥生人が日本全土に広がるにつれて、混血しつつも本来の日本における先住民であったとされる縄文人が南北に押しやられる段階で、(アイヌ人については、よくわかっていないが)日本では、沖縄と奄美の住人の「先祖が先に枝分かれしてしまい、日本人の祖先との往来も少なくなるうちに、5母音が3母音化する(例;おきなわ=うちなあ)などと、一聴する限り、外国語のように聞こえてしまうこともありうる程度の差が生じたと見られる。次いで、九州地方や東北地方などに住んでいる人々の祖先が押しやられてしまったといわれている。これも、文字や共通語で統一されてこなかったなら、 母語話者の古老同士が話すにあたって、通訳が必要なくらいの言語学的差異があるといえる。これとは逆に、例えばサッカーの試合などでスペイン語圏の選手とポルトガル語圏の選手が言い合いする場合などは、元々ラテン語の一方言(一種類という意味ではない)を話していた一つの国が分かれた程度なので、すべての言葉はわからなくても、言い合いのけんかくらいは可能だ、などといわれる。
イギリスのスコットランドや北アイルランドでの英語表現にも一部そういった例があるが、例えば、日本において、早い段階、つまり、古い時代に枝分かれした方言は、その地方独自の語彙や言い回し表現が生まれると同時に、中央(その時代の共通語や標準語に相当する地方)で死語や廃語になった言葉が、(意味や使い方が変わったとしても)1000年以上も生き残っているケースも少なからずある。 例えば、北海道の一部の海岸地帯や東北のある県では、古典にしか出てこない「せば」という言葉が時々中年齢層の人から聞かれる。
柳田国男が蝸牛考で指摘したように、中央から同心円状に同じような語彙や言い回しが存在し、辺境に行くほど中央で古い時代に使用されていたものが分布していることがある。このような分布を「周圏分布」といい、カタツムリを表す単語などがこの分布を示している。 逆に、周圏分布を示さない例や、見かけ上の周圏分布を示すものも多くあり、特に文法現象や音声についてはこのような分布を示すものが多い。
この他、語彙や言い回しが顕著な「東西分布」を示すことが知られている。明治期、国語調査委員会が初めて調査を元に実証したのは、東日本方言と西日本方言との境界となる糸魚川浜名湖線の存在であった。1908年(明治41年)の報告には、「仮ニ全国ノ言語区域ヲ東西ニ分カタントスル時ハ大略越中飛騨美濃三河ノ東境ニ沿ヒテ其境界線ヲ引キ此線以東ヲ東部方言トシ、以西ヲ西部方言トスルコトヲ得ルガ如シ」と明記されている。糸魚川浜名湖線は、中部地方の中央部を縦断する糸魚川静岡構造線とともに、東日本と西日本との明確な境界となっている。 なお、東北方言に顕著な語彙や発音に着目し、東北方言と関東以西の方言との間に東西分布を認める場合もある。
日本語の方言分類
方言の分類は以下のように分類されてはいるが、そもそも方言の変化が現在進行形に進行している上に、同じ県地域でも、ほんの少し離れた町同士では微妙に方言の使い方が違ったりと、複雑な様態を示していて、こうした方言の分類法はあくまで便宜的なものであるととらえるべきだろう。
東日本方言
- 北海道方言
- 東北方言 (江戸時代の西廻り航路(北前船)の港町がある藩は京言葉や大阪弁など上方方言の影響がみられ、東廻り航路の港町がある藩や主要街道が通っている藩は江戸言葉の影響がある)
- 関東方言
- 東海東山方言(広義)
八丈方言
- 八丈方言 (八丈島、青ヶ島。古代東日本方言の特徴を色濃く残す。)
西日本方言
九州方言
琉球列島
特殊方言
浜言葉
第3の言語
日本が有する言語を日本語(琉球方言を含む)、アイヌ語の二つに大別したとき、ある方言を意図的にそのどちらでもないものとして定義したものを「第3の言語」と呼ぶことがある。
- サンカ語
- 山窩が使用していたとされる言語。暗号の一種とも言われる。
- 小笠原語
- 小笠原諸島に住む欧米系島民が用いる言語。八丈方言をベースに英語に由来する単語が用いられる。小笠原クレオール日本語と呼ぶこともある。
- ケセン語
- 岩手県気仙地方(旧気仙郡)の方言を文法体系を整備構築し、独立言語とみなす研究の中でこの方言のことをケセン語と呼ぶ。この地方の方言には古代蝦夷の言語の影響があるとの指摘もある。ケセン語と最初に名づけたのは外科医師の山浦玄嗣である。
関連項目
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