半身症候鍼灸法
半身症候鍼灸法(はんしんしょうこうしんきゅうほう)とは、鍼灸師、茂木昭が1994年に創案した鍼灸法である。
概要
日本で行われている鍼灸法には中国古代の医書、黄帝内経素問・霊枢等の古典理論を根拠に昭和初期に形成された経絡理論を重視する治療体系の古典派と現代解剖学の主に神経系を重視する科学派がある。その後、鍼灸の発祥の中国では文化革命以降伝統医学の見直しされ新たに再編成された中医学理論が形成された。1960年代これら中医学理論方式が数次にわたり我が国に導入され現在この3種の鍼灸法が広く行われている。
半身症候鍼灸法とは、これらの3種の鍼灸理論とはその視点を異にした生体と障害観察より見出した種々の生体現象に基づき確立した治療体系である。考案のきっかけは鍼灸臨床でしばしば遭遇する今日は右半身ばかりが悪い、左半身ばかりが悪いという患者の訴えであった。この現象は鍼灸古典理論をはじめ他の現代医学的理論派からも説明されてこなかった。多くのデータを取ると症状が右半身、あるいは左半身に偏る率が非常に多く、更に詳細に調べるともう一種の中心領域を加えると来院する患者の大多数を占めた。その後それらの各3種と、更にそれらと2種複合する合計6種の病位側(障害のパターン)が見られることを判明した。1万例以上の臨床において、すべてこの6種に分類できることが分かってきた。
半身症候鍼灸法の名称の由来もこの治療法考案のきっかけとなった右半身症状と左半身症状の2種の症状パターンからの命名である。この6種とは右半身症候、左半身症候、中心症候、右半身・中心症候、左半身・中心症候、両半身症候である。身体を縦に3区分する生体エネルギー・気の循環現象の異常に対して、解剖学的検査である身体各部の触診、脊椎その他骨格系のモーションパルペーション(関節可動性テスト)と筋肉反射テスト及びTRテスト(茂木 昭が考案した筋肉反射テスト)により診断し、それに対応する脳戸、天柱付近の1~2穴の浅刺により全身組織の機能障害の改善を目標とするものである。触診では右半身症候を例にとると人体正中線より右の部位全体に異常が見られる。それは反対の正常側が温かみのある弾力が見られるのに対して、右半身全体に温もりが少なく、弛緩しているか緊張が見られる。左半身症候ではその逆である。中心症候では正中線を挟んだ左右に2~3センチの領域の異常現象が見られる。右半身症候の選穴は右天柱付近の全身の異常部位を改善する反応を検出することができる。同様に左半身症候では左天柱付近、中心症候では脳戸付近にその改善反応を検出することができる。他の3種はそれらの2種の組み合わせとなる。
刺鍼後、効果不完全からの選穴の追加あるいは補助的選穴は全くしていない。それは、刺鍼後の効果を検査段階で改善するものかどうかもチェックできているからである。治療理論には古典における虚実補瀉理論も本治法、標治法の複合的理論も存在しない。
[]半身症候鍼灸法の診断では生体機能にきわめて重要な役割を持つ骨格系の検査法を中心に行う。それは骨格系検査は、一定レベルまで習熟した検査者において、軟部組織の触診、あるいは脈診などと異なり、一致する明確な検査が可能だからである。カイロプラクティック、オステオパシー医学同様の骨格系検査とともに微細骨折の影響あるいは感染症の影響にも注目している。
出典
茂木昭 (2004) 茂木昭 [ 手技治療のための筋肉反射テスト ] たにぐち書店 2004 978-4-86129-006-0
茂木昭 (2007) 茂木昭 [ 生命のささやき ] 知道出版 2007 978-4-88664-171-7
茂木昭 (2010) 茂木昭 [ 気の治療学 ] 改 千早書房 2010 978-4-88492-330-3