特別永住者

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特別永住者(とくべつえいじゅうしゃ)とは、平成3年(1991年11月1日に施行された日本法律「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」(平成3年法律第71号。略称・入管特例法)により定められた在留の資格のこと、または当該資格を有する者をいう。米国戦艦ミズーリ艦上での日本の降伏文書調印日(昭和20年(1945年9月2日)以前から引き続き日本(いわゆる内地に限る)に居住している平和条約国籍離脱者朝鮮人韓国人)及び台湾人)とその子孫を対象としている。

平成20年(2008年)の実数は、前年より9924人減少し42万305人である[1]。日本国に存在する約222万人の外国人の中で約19%を占めるが、その割合は年々低下している。近畿地方に約半数が集中する。

概要

第二次世界大戦によって大日本帝国が解体されると、その版図に含まれていた朝鮮連合国に分割占領され後に、韓国北朝鮮として独立し、台湾は中華民国に併合された。その住民も日本国籍を喪失した。このうち、日本在住の両地域出身者に対する救済措置として、日本政府は特別永住者として他の外国人と区別した扱いを認めた。慣例的に特別永住権と呼ばれることがあるが法的に権利では無い。

歴史

特別永住者制度前史
外国人登録の表記 制度開始日 申請期限 適用終了日 根拠法令 摘要
4-1-14 1951年11月1日
(1952年4月28日)
任意 1990年5月31日 出入国管理令(昭和26年政令第319号)第4条第1項第14号
(1982年以降の題名は出入国管理及び難民認定法。以下同じ)
(一般永住許可)
(1982年1月1日) 1986年12月31日
(一部例外あり)
出入国管理及び難民認定法附則第7項 特例永住許可
法126-2-6 1952年4月28日 自動適用 1991年10月31日 ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係
諸命令の措置に関する法律(昭和27年法律第126号)第2条第6項
1945年9月2日以前から日本に在留
する者
その子で1952年4月28日午後10時半
前までに日本で出生し在留する者
4-1-16-2 出生の日から30日以内
要期間更新
1990年5月31日 出入国管理令第4条第1項第16号
特定の在留資格及びその在留期間を定める省令(昭和27年外務
省令第14号)第1項第2号(1981年末まで)
出入国管理令施行規則(昭和56年法務省令第54号)第2条第2号
(1982年以降)
上欄該当者の子
在留期間3年(更新手数料無料)
1982年に旧4-1-16-4を統合
(不詳) 1953年12月25日 自動適用 1991年10月31日 奄美群島の復帰に伴う法務省関係法令の適用の経過措置等に
関する政令(昭和28年政令第404号)第14条第2項
(1982年以降は第14条)
1945年9月2日以前から奄美群島に
在留する者
その子で1953年12月25日午前0時前
までに奄美群島で出生し在留する者
4-1-16-4 出生の日から30日以内
要期間更新
1981年12月31日 出入国管理令第4条第1項第16号
特定の在留資格及びその在留期間を定める省令第1項第4号
上欄該当者の子
在留期間3年(更新手数料無料)
廃止時4-1-16-2に統合
協定永住 1966年1月17日 1971年1月16日
(一部例外あり)
1991年10月31日 日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する
日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第28号)第1条
日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する
日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法
(昭和40年法律第146号)第1条第1項
1945年8月15日以前から日本に在留
する大韓民国国民
その直系卑属で協定発効後5年以内に
日本で出生した者
出生の日から60日以内 上欄該当者の子で協定発効後5年
経過以降に日本で出生した者
永住者 1990年6月1日 任意 (1991年10月31日) 出入国管理及び難民認定法別表第2 旧4-1-14に相当
平和条約関連国籍
離脱者の子
要期間更新 1991年10月31日 旧4-1-16-2に相当
在留期間3年(更新手数料無料)
特別永住者 1991年11月1日 自動適用 (現行) 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国
管理に関する特例法(平成3年法律第71号)第3条
法定特別永住者
出生等の日から60日以内 同法第4条 特別永住許可
任意 同法第5条
  • 制度開始日及び適用終了日のうち、丸括弧を付したものは、その在留資格等自体の創設・廃止ではなく一部の適用対象に限って運用が開始又は終了したことを示す。
  • 根拠法令の条項はその当時のものであり、後の改正により現行の条項とは異なる場合がある。
  • 平和条約国籍離脱者及びその子孫のうち、「法126-2-6」、「協定永住」、「永住者」又は「平和条約関連国籍離脱者の子」に該当する者は、特別永住者制度施行日(1991年11月1日)に「特別永住者」へ自動的に移行した(特例法第3条適用)。当該移行措置に昭和28年政令第404号第14条該当者に関する規定は含まれなかった(その時点で既に該当者が存在しなかったためと思われる)。

「平和条約国籍離脱者」及び「平和条約国籍離脱者の子孫」

詳細は平和条約国籍離脱者参照

特別永住者であるためには、「平和条約国籍離脱者」又は「平和条約国籍離脱者の子孫」であることが前提要件とされ、具体的には1952年4月28日発効のサンフランシスコ講和条約により日本国籍を離脱したものとされた在日韓国・朝鮮人及び在日台湾人(朝鮮戸籍令及び台湾戸籍令の適用を受けていた者で1945年9月2日以前から日本の内地に継続して在留している者)が対象となる。日本国外に出国し在留の資格を喪失した者(一般には韓国・朝鮮民主主義人民共和国に帰国した者を指す)はここでいう「平和条約国籍離脱者」には該当しない。

「平和条約国籍離脱者の子孫」とは平和条約国籍離脱者の直系卑属で日本で出生しその後引き続き日本に在留する者であることが基本的要件[2]となる。したがって、平和条約国籍離脱者の子孫であっても日本国外で出生した場合などは特別永住許可を得ることはできない。

特別永住者資格の要件

次のいずれかの要件を満たすこと[3]が必要である。

1.平和条約国籍離脱者または平和条約国籍離脱者の子孫で1991年11月1日(入管法特例法施行日)現在で次の各号のいずれかに該当していること

(1)次のいずれかに該当すること
ア 旧昭和27年法律第126号第2条第6項の規定により在留する者(平和条約国籍離脱者として当分の間在留資格を有さなくても日本に在留することができるものとされた者)
イ 日本国に居住する大韓民国国民の法的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法(旧日韓特別法。廃止)の規定により永住の許可(いわゆる協定永住)を受けている者
ウ 入管特別法改正前の入管法(以下「旧入管法」という)の規定に基づき永住者の在留資格を有して在留する者
(2)旧入管法に基づき平和条約関連国籍離脱者の子の在留資格をもって在留する者

2.平和条約国籍離脱者の子孫で出生その他の事由[4]により上陸の手続を経ることなく日本に在留する者で、60日以内に市区町村長を通じて法務大臣に特別永住許可申請をして許可を受けた者

3.平和条約国籍離脱者または平和条約国籍離脱者の子孫で「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」または「定住者」の在留資格を有する者で、地方入国管理局法務大臣に特別永住許可申請をして許可を受けた者

特例

特別永住者はかつて日本人であったというその歴史的経緯から、他の外国人(特に通常の永住者)と比べ、次のような特例処置を受ける。

退去強制

特別永住者は、退去強制となる条件が他の外国人よりも限定される(特例法第9条)。具体的条件は次のとおり。

特別永住者以外の外国人の退去強制手続が出入国管理及び難民認定法第24条に規定される退去強制事由(20項目以上)に基づくのに対し、特別永住者には同条は適用されず上記のような日本国の治安・利益にかかわる重大な事件を起こさない限り退去強制となることがない。

だが実際には上記のような事件を起こしていても実際には退去強制とはなっていない。実例として7年以上の懲役又は禁固刑に処せられた特別永住者は多々いるが、法務大臣が日本の重大な利益が損ねられたと認定したことが一度も無いので退去強制は行われておらず、この条項は死文化しているとの批判がある。

再入国許可

2007年11月20日以降、外国人は日本入国(再入国を含む)の際に、顔画像と両手人差し指の指紋照合(提出)を義務付けられるが、特別永住者は免除される。一方、韓国では2010年7月からすべての外国人の指紋や顔の生体情報採取を行いデータベース化する方針である[5][6]指紋押捺拒否運動)。 また、その審査に当たっては通常の外国人には、上陸拒否事由に該当する場合は再入国許可が得られても上陸拒否されるが、特別永住者の場合は有効な旅券を有しているか否かのみが審査され、上陸拒否事由に該当したとしても再入国することができる。

また、通常の外国人の場合再入国の有効期限の上限が3年であるのに対し、特別永住者の上限は4年であり、再入国の許可を受けて出国した者について、当該許可の有効期間内に再入国することができない相当の理由があると認めるときは、その者の申請に基づき、1年を超えず、かつ、当該許可が効力を生じた日から5年を超えない範囲内(通常の外国人の場合は4年を超えない範囲)で有効期間の延長を認めることができる。

登録証明書携帯義務の制裁の特例

通常の外国人の場合、登録証明書を携帯しない場合、刑事罰として20万円以下の罰金に処せられる可能性があるが、特別永住者の場合は行政罰としての10万円以下の過料に処せられる可能性があるにとどまり、携帯義務違反を理由に現行犯逮捕強制捜査の対象にはならないこととなる(提示義務違反は刑事罰の対象になる)。

雇用対策法に基づく届出義務適用除外

2007年10月1日から事業主は、雇用対策法に基づき外国人を雇用した場合及び離職した場合、公共職業安定所に対し届出義務があるが、特別永住者については外交・公用の在留資格を有する者とともに届出義務が課せられない。また、国または地方公共団体が外国人を雇用した場合も公共職業安定所にその旨通知する必要があるが、同様に特別永住者についてはその適用がない。

特別永住者資格の喪失

特別永住者であっても、あらかじめ再入国許可を受けることなく日本から出国(いわゆる単純出国)したり、再入国許可の有効期限が消滅した後も日本国に入国しない場合は特別永住者資格を喪失する。喪失した場合は再び特別永住者資格を取得することはできない。これは、日本に継続して在留していることが特別永住者の要件であるところ、再入国許可を受けないまま出国した場合はその時点で、再入国の有効期間を過ぎてもなお日本に入国しない場合は出国した時点に遡って、いずれも特別永住者資格を喪失し、「継続して在留した」との要件を満たさなくなるためである。なお、再入国許可を得て出国しその有効期間内に再入国した場合は継続して日本に在留しているものとして扱われる(これは在留の資格に関する解釈便宜上に限った観念であって、時効の停止・税法の適用など他の法令の解釈には影響しない)。

特異な事例としては、一時的出国に際して再入国許可を申請したが、外国人登録原票への指紋押捺拒否等により同申請が不許可となり、にもかかわらず日本から出国したため協定永住資格を喪失、再来時に当時の在留資格4-1-16-3(定住者に相当)を付与されたあと、行政訴訟等で制度の改善運動を行い、その結果、事後立法により特別永住者資格とするとの「みなし規定」で資格が復活した例がある(入管特例法附則第6条の2)。

特別永住者の実際

上記のように特別永住者資格の要件は「戦前から日本に居住していた外国人」であることが前提要件であるが、実際には戦後、済州島四・三事件から逃れるために、また出稼ぎのために、多くの韓国・朝鮮人が日本へ密航して[7][8][9]特別永住資格を得た[10]。 戦後出稼ぎのために密航し、戦後の混乱に紛れて特別永住資格を得たと証言する元在日韓国人のマルハン韓昌祐会長[8]や、「韓国の済州島出身の祖父は、戦後、大学で学ぶために日本に来た在日1世でした」と語る特別永住資格者(在日韓国人3世)の[11]俳優チョウ・ソンハなどが存在している[12]。また、1950年6月28日の産経新聞朝刊では「終戦後、我国に不法入国した朝鮮人の総延人員は約20万から40万と推定され、在日朝鮮人推定80万人の中の半分をしめているといわれる」と伝えており、一方西岡力は70万人(2000年現在)の在日韓国・朝鮮人のうち26パーセントにあたる18万人が戦後に日本に渡って特別永住資格を得た者であると述べている[10]

特別永住者の実数

  • 現在の特別永住者の数は、ピークだった平成3年(約69万人)と比べ4割減の約42万人。
  • 日本国に住む外国人全体の中で約19%を占めるが、12年前と比べ割合が半減。
  • 減少の原因として、1.毎年7000-10000人にのぼる帰化、2.日本人との国際結婚、3.死亡者数が新生児数を大きく上回っていることなどが考えられる。要出典
外国人
全体
平成03年(1991年) 693,050 約57%
平成08年(1996年) 554,032 約39%
平成09年(1997年) 543,464 約37%
平成10年(1998年) 533,396 約35%
平成11年(1999年) 522,677 約34%
平成12年(2000年) 512,269 約30%
平成13年(2001年) 500,782 約28%
平成14年(2002年) 489,900 約26%
平成15年(2003年) 475,952 約25%
平成16年(2004年) 465,619 約24%
平成17年(2005年) 451,909 約22%
平成18年(2006年) 443,044 約21%
平成19年(2007年) 430,229 約20%
平成20年(2008年) 420,305 約19%

特別永住者資格の問題

詳細は在日特権参照

特別永住者資格は、他の在日外国人の在留資格と比較して相対的に優遇されている。このことから、在日特権の1つとしてしばしば問題視されている。

特別永住者の国籍には以上のような特徴がある。

  • 元々、平和条約国籍離脱者が韓国・朝鮮人、台湾人のみであったため、「平和条約国籍離脱者」及び「平和条約国籍離脱者の子孫」である特別永住者にも、その3つの国籍が非常に多い。両親の国籍が日本以外の別々の国である場合、成人した子供が韓国・朝鮮、台湾以外の方の国籍を選択することがある。そのことにかかわらず、両親の一方が特別永住者であった場合、特別永住許可を申請できる。
  • 2007年末時点では、特別永住者の国籍のうち、韓国・朝鮮は426207人(99%)、中国は2986人(0.7%)、その他は1036人(0.24%)である[13]。2007年末現在の特別永住者数は43万人で、一般永住者の43万9千人を初めて下回った[14]

特別永住者には、以下のような他の在留資格にはない権利がある。

  • ここで、一般永住者と特別永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者を「定住外国人」と呼ぶ。
  • 在留期限がなく、在留期間を更新する必要がない(一般永住者、永住者の配偶者等も同じ)。
  • 一部公務員を除き、職業の制限がない(他の定住外国人も同じ)。
  • 生活保護の受給資格がある(他の定住外国人も同じ)。
  • 「平和条約国籍離脱者の子孫」、すなわち特別永住者の子孫は特別永住許可を申請できる。
  • 再入国許可の期限が、3年の場合は4年、4年の場合は5年に延長される。

特別永住者が退去強制されるのは、以下の場合のみである。

  • 内乱に関する罪、外患に関する罪、国交に関する罪、外国の元首、外交使節又はその公館に対しての犯罪により禁錮以上の刑に処せられた者。
  • 外交使節又はその公館に対する犯罪行為により禁錮以上の刑に処せられた者で、法務大臣においてその犯罪行為により日本国の外交上の重大な利益が害されたと認定したもの。
  • それ以外の罪で無期又は7年を超える懲役又は禁錮に処せられた者で、法務大臣においてその犯罪行為により日本国の重大な利益が害されたと認定したもの。

関連項目

注釈

  1. 平成20年末現在における外国人登録者統計について
  2. 正確には、さらに以下のいずれかの要件を満たすことが必要である。
    一 平和条約国籍離脱者の子
    二 前号に掲げる者のほか、当該在留する者から当該平和条約国籍離脱者の孫にさかのぼるすべての世代の者(当該在留する者が当該平和条約国籍離脱者の孫であるときは、当該孫。以下この号において同じ。)について、その父又は母が、平和条約国籍離脱者の直系卑属として本邦で出生し、その後当該世代の者の出生の時(当該出生前に死亡したときは、当該死亡の時)まで引き続き本邦に在留していた者であったもの
  3. その他、特例として旧日韓特別法に基づく永住の許可を受けて在留していた者で、再入国の許可を受けることなく出国し、外国人登録法の一部を改正する法律(平成11年法律第134号)の施行の日(2000年2月18日)において入管法別表第二の上欄の在留資格をもって在留しているものが、同日以降、同欄の永住者の在留資格をもって在留するに至ったときも特別永住者の資格を取得するが、これは指紋押捺拒否運動により再入国の許可得られないまま出国し、永住者資格を喪失した者に対する救済措置として特定の個人(該当者1名)を対象として特別に特別永住者資格が与えられたものである。
  4. 二重国籍者で、日本国籍を離脱したり選択しないことにより日本国籍を喪失する場合をさす。
  5. 外国人指紋登録を来年下半期から実施、法務部 聯合ニュース 2009/04/03 閲覧
  6. 外国人に指紋と「顔の情報」提出を義務付けへ 朝鮮日報 2009/04/07 閲覧
  7. アジア歴史資料センターリファレンスコード A05020306500「昭和21年度密航朝鮮人取締に要する経費追加予算要求書」
  8. 8.0 8.1 2005年5月18日テレビ朝日『ワイド!スクランブル』マルハン韓昌祐会長証言と番組での解説
  9. 1959年6月16日朝日新聞密入出国をした朝鮮人がかなりいると見られているが、警視庁は約20万人としている
  10. 10.0 10.1 2000年9月26日産経新聞
  11. 2008年2月27日読売新聞
  12. 2008年2月28日読売新聞
  13. 登録外国人統計2007年
  14. 外国人登録、中国籍トップ、韓国・朝鮮籍を抜く(産経新聞2008年6月3日)

外部リンク