乳房

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乳房を露出させた女性

乳房(にゅうぼう、ちぶさ)は、哺乳類メスが持つ外性器の一つ。構造上は外皮と密接な関係があり、女性では乳腺から乳汁分泌哺乳器としての機能を内包する。その形状や大きさには個人差、年齢差、人種差があり、乳腺の分泌期とそうでない時期によっても異なる。女性では10歳前後から発達し始め、成人では前胸壁大胸筋上に半球状(お椀状)に隆起し、底面の直径は平均で10-12㎝ほどである[1]。俗語では乳(ちち)あるいはお乳とも言い、俗におっぱいとも呼ばれる。

概要[編集]

乳房は多くの哺乳類メスに存在する、皮膚の一部がなだらかに隆起しているようにみえる柔らかい器官で、その内部には、乳汁(母乳、乳)を分泌する機能を持つ外分泌腺の乳腺(にゅうせん)が存在する。哺乳類の乳房は胴部の腹面に左右の対をなして発達する。乳房の中央には、乳汁が外部に分泌される開口部を含む乳頭(にゅうとう)が存在する。哺乳類では、産まれてから一定期間の間の乳児は乳汁を主たる栄養源として与えられ、生育する。哺乳類の名前は、ここから来ている。オスの乳房、乳腺はその生産機能と分泌の機能を持たないため通常、痕跡的である。

なお、野生の哺乳類では授乳時に乳頭が露出することによって辛うじて存在が判明する程度の膨らみにしか発達しない種が多い。また、単孔類では乳房や乳首は発達せず、腹面の育児嚢の中のくぼみ状の構造から母乳は分泌される。乳腺は本来は汗腺のようなものから発達したもので、単孔類のそれは原始的状態を保持したものと考えられる。

以下、特に断りがない限り、人間の乳房について記述する。

ヒトの乳房[編集]

概観[編集]

哺乳類であるヒトの乳房は、通常は胸部前面に1対存在する。その役割は出産後に母乳を分泌し、乳児を育てることであるが、文明が発達した現代においては、母乳を代替品の粉ミルクにより置き換えることも可能ではある。医学的に考察すれば その与えられた免疫機能の重要性は極めて高く、代替品では近似してはいても、その本来の成分には遠く及ばない。免疫の極めて低い状態で出生する新生児に確実に免疫を獲得させる目的からも、母乳が勧められる。

ヒトの乳房はその大きさや膨らみ方が他のサル類より大きい例が多いこと、また妊娠期間や育児中でなくとも目立つ存在である点で特異であり、これはヒトの進化の特徴のひとつと考えられる。しかし、その理由や過程については議論が多く、一定の結論は出ていない。

乳房の構造[編集]

乳房の表面は皮膚で覆われる。ヒトの女性では、通常は胸部の大胸筋の表面の胸筋筋膜上に左右1対が存在し、およその位置は、上下が第3肋間~第7肋間、左右は胸骨と腋窩の間である。乳房は思春期前は性差がなく男児と同じ(乳房のタナー段階I)であるが、思春期の初経を挟む約4年間に乳腺が発達し、脂肪組織が蓄積する。また、妊娠中から出産直後にかけても膨らむ[2]。乳房の脂肪組織の形・大きさは個人差が非常に大きい。20代より乳房の中身が徐々に衰退するため乳房が張りを失い徐々に下垂し始める[3]

乳房の内容は成人型乳房の場合、その容積の9割は脂肪で、1割が乳腺である。初潮前後から成人型乳房になるまで(乳房のタナー段階III・IV)は乳房が硬くなる。乳腺は、乳房一つあたり15~25個の塊として存在し、乳頭の周囲に放射状に並ぶ。それぞれの塊を葉(よう)と呼ぶ。それぞれの乳腺の葉からは乳管が乳頭まで続き、乳腺より機能し分泌された乳は、乳管、乳頭を通して体外へ出る。乳房組織の脂肪組織は乳の生産には全く関係しない。

乳房の成長[編集]

タナー段階によれば、両性において共通するのがI(幼児型)である[4]。その後、女性は第II・III・IVの3課程(第2・3を前後半に分けると5過程)を経て、Vにおいて女性成人型に変化する。女性の思春期は7歳7ヶ月 - 11歳11ヶ月の間、平均年齢の9.74±1.09歳[5][6]に乳房の成長開始(乳頭期)から始まり(乳房の発育異常が見られる場合は年齢を含めてこの限りでは無い)、初経の1年以上前はIIで、初経前後でIII、初経の1年後以降でIVとなり、IからVへ変化する期間は途中で初潮を挟む約4年間である[7][8][9]。初経は多くの女性で10歳-15歳の間[10]に迎えるので、初経から3年以上経ち成人型乳房になるのは13歳(10歳で初経の時)-18歳(15歳で初経の時)以降となる。男性は女性と異なり思春期初来から成長せず、腋毛の発生時に、乳輪の面積が若干広くなり、乳頭と共に茶色や黒色に変色し、筋肉の発達後に乳房が男性成人型へ発達する[11](ただし、女性化乳房の症状が出ている場合は事情が異なる)。

  • 女性
タナー段階[12][10][6]
(ステップ)[7][8][13][14]
細分類[15] 時期[7][8][9][16] 乳首 乳輪 乳首・乳輪の色 乳房の膨らみ その他
I
(ステップ0)
思春期前 小さな乳首のみ突出。乳腺が触れていない。 面積が小さい。 ピンク色。 膨らんでいないため、乳房と胴体の境界が不明瞭。 幼児型。成長前の男性と性差無し。[4]
II
(ステップ1・めばえる)
乳頭期[17] 思春期初来 初経を挟む約4年間 膨らみ始める(以降、乳首の大きさには個人差がある[18])。 面積が拡大し始める。 個人差により薄ピンク色のままの人もいれば、ホルモンバランスの変化や乳首・乳輪に被服などの物が摩擦することなどで乳首・乳輪のメラニン細胞が活性化してメラニンが生成され、黒ずむ人もいる[19][20] 蕾の時期。乳腺が活動し始める。内部から広がるように膨らんでいくため、乳首・乳輪付近が非常に敏感・繊細で傷付きやすく、ノーブラだと乳首・乳輪付近に被服などのが接触したり体を揺すったりすると疼痛痒みが生じたり(これが左記の黒ずみの一因になる)、胸付近の布地が薄く胸に密着している被服を1枚のみ着用している時に胸ポチが過去に比べて目立ちやすくなることで思春期に入り[21]、ノーブラを止めてジュニアブラを着け始める必要がある事に気づきやすい。
初経の1年以上前
乳輪期[17] 膨らみが増す。 面積の拡大が増す。 乳輪付近が硬くなりながら[22]膨らみ始める。
III
(ステップ2・ふくらむ)
乳房第1期 初経前後 膨らみが増す。乳頭径はこれ以降4-9mmに膨らむ。 乳輪付近だけでなく、乳房全体が硬さ[22]を増しながら膨らみ始める。 乳房の内部組織の成長が進み、中にコリコリとしたしこりができてくる時期。ノーブラで走ったり運動したりすると、乳揺れが少し生じ初め、乳揺れによって疼痛が生じたり、胸ポチが目立ちやすい場合がある。
乳房第2期 膨らみと硬さ[22]が乳房第1期より増し、下輪郭(バージスライン)が現れ始める。ホイップしたクリームがヒュッと立ったような円錐形で横から見たときに下輪郭(バージスライン)がまっすぐ。乳房の底面は横に長い楕円形になる。下輪郭(バージスライン)が丸みを帯び始めると成長期への移行期になる。
IV
(ステップ3・まるくなる)
形成期 初経の1年以上後 - 3年後 面積の拡大が増し、乳輪が乳房から隆起する。 乳房が硬さ[22]を増しながら立体的に膨らみ、横から見たとき下輪郭(バージスライン)が丸くなり、乳房全体に丸みを持ち、乳房の底面が円に近くなり、乳房の位置が女性成人型と異なる[23]だけでほぼ成人型となる。乳房は女性成人型になるまで膨らみ続ける。乳房が柔らかくなり始め、乳房の位置が女性成人型の位置へ変わり始めると、女性成人型への移行期となる。 乳腺の発達が著しい。ノーブラで走ったり運動したりすると、完全に乳揺れが生じるようなり、乳揺れによって疼痛が生じたり乳房の内部組織が伸びたり、胸ポチが目立ちやすい場合がある。
V 初経の3年以上後 膨らみが最大になる。 面積が最大となり、乳輪と乳房が同一平面上となる。 女性成人型の膨らみとなり、乳房が柔らかく、乳輪と乳房が同一平面上となり、乳房の位置も形成期までの位置から女性成人型の位置に変わる[23] 女性成人型(成長終わり)。
  • 男性
特徴
成長前 幼児型。小さな乳首のみ突出、乳輪も薄ピンク色で面積が小さい。成長前の女性(タナー段階I・ステップ0)と性差無し。
成長後 乳首が少し膨らみ、乳輪が少し拡大し、乳首・乳輪共に黒ずむ。男性成人型となる(成長終わり)。ただし、女性化乳房の症状が出ている場合はこの限りではない。

女性の乳房の衰退[編集]

上記で成長した乳房は20代からステップ1となり衰退し始める。衰退が早い人は20代でステップ2に達する人がいる。順序は以下の通りである[3]

  • ステップ0 乳房の成長の第5段階、丸い形で垂れていない。
  • ステップ1 上胸のボリュームが落ちる(脇側がそげる)
  • ステップ2 乳房下部がたわみ、乳頭が下向きになる。
  • ステップ3 乳房が外に流れる、乳房自体が下がる。

乳房の形状[編集]

乳房の形状は個人差、人種差、年齢差が大きいことは前述したが、乳房の軸と底面直径の関連により分類される。ドイツの人類学者マルチンは以下の4つに分類した。

  • (1)皿状乳房 - 乳房の高さが低く、基底が大きい。
  • (2)半球状乳房 - 高さが基底の半径に近い形状。ヨーロッパ人に多い。
  • (3)円錐状乳房 - 高さが基底の半径よりも大きい。
  • (4)山羊乳状乳房 - 乳頭が著しく下方に向いている特徴を持つ。

(以上[1]) 上記4つのほか、発育時期により、胸乳型、蕾乳房、成熟乳房などに分類することもできる。また月経周期によりその形状は変化することもある[1]

性的アピールとしての役割[編集]

動物学者、デズモンド・モリスの『裸のサル』による説によると、ヒトの祖先が四足歩行していた時代はが赤く大きければ性的なアピールが出来た。やがて二足歩行をする様になるに従い、尻での性的アピールは目立たなくなる様になった。そのため胸部を大きくするという種が現れ生き残っていったのではないか、とする仮説である。この他にも乳房の発達とその性的意味に関しては多くの議論があり、定説はない。性的な意味を否定する説すらある。

また、ヒトの乳房は、神経終末が集中している乳首をはじめ刺激を受けると性的興奮を得やすい。医学博士志賀貢によると、クリトリスの性感を100とすると、乳首の感度は80前後という事である。

その進化と議論[編集]

現在の西欧や日本に関して言えば、女性の乳房の存在は明らかな性的アピールであり、肉体の性的魅力の大きな要素をなしている。思春期の女性は乳房が思春期開始と共に発達し始めるのに対し、尻の発達し始めるのは乳房全体が膨らみ始める初経の1年前後[11][7][13][24]と乳房よりも後になる。また、性行為においては、乳房への愛撫は大きな位置を占める。歴史をたどっても、女性の乳房に性的意味を付したと思われる例は枚挙にいとまがない。そのような点から、女性の乳房は性的意味合いを持って進化したのだと考えるのはある程度は当然であろう。

では、なぜヒトにだけこのような進化が起きたかであるが、上記のようにモリスはこれをヒトが直立姿勢を取り、四つ足の姿勢を取らなくなったことに依るとした。多くのサル類では発情期に雌の尻が色づき、これを雄に示す行動が知られる。立位ではこれが出来ないため、似たような構造が胸に発達したという説を提唱している。また、性的愛撫の対象になったことに関しても、正面から向き合う交尾姿勢を取るようになったことから、直接に触れる位置にある乳房がその役割を担うようになったとする説もある。常時発達した状態にあることも、発情期に関係なく性的交渉を持つようになったことと関係づけて理解できるとする。

他方、このような説に対する反論も根強い。特に問題なのは、サル類においては、乳房が発達するのは妊娠期か育児期間であるという点である。つまり、ヒトの先祖において、まだ現在のような乳房でなかった時点ではサルと同じであった可能性が高い。とすれば、乳房が発達した雌は、子供を持っている、言い換えれば新たな子供を作れない状態にあり、そのような雌は求愛の対象にならないはずである。求愛の対象外であるサインとなり得る「発達した乳房」が性的魅力を持ち得るはずがないというのである。

さらに、乳房の性的意味合いすら否定する説もある。現在社会では明らかに乳房を魅力としているが、過去の他の社会では必ずしもそれを認めない例があるというのがその理由のひとつである。たとえば江戸時代の日本においても、和装は乳房などの形を完全に隠してしまう。それに、性的快感があるから、性的意味合いがある、という点についても、では肛門に性的意味を認めるか、といった反論が可能である。このような部分についてはヒトの場合、生育歴や文化の影響が大きく深いため、種としての本来のあり方、といった議論が難しい面もある。熱帯地方においては乳房を露出する部族も存在するが、(特に冬季は)気温が低い温帯以北においては乳房は常時隠す習慣があることも地域による乳房の性的意味の差異の要因の1つとなっている。

乳汁の分泌とその調節[編集]

血液を原料に乳を作る。乳房組織の脂肪は乳の生産自体には関係がないため、その大きさと母乳の量・質には因果関係はない。乳(ちち)は、乳汁(にゅうじゅう)ともいい、ヒトや動物のうち哺乳類が幼児に栄養を与えて育てるために母体が作りだす分泌液で、乳房組織で作られ乳首から体外に出てくる。乳房組織は血液の赤みをフィルターして乳にする。出産直後に母体から出る乳は初乳と呼ばれ、幼児の免疫上重要な核酸などの成分が含まれている。

どんな哺乳類も本来子供を出産した後、数ヵ月から数年の哺乳期間だけ母体は乳を作り出す。脂肪組織に蓄えられたダイオキシンなどの極めて毒性の高い物質が母乳に溶け込んで排出される量は、年齢の高い女性ほど多くなりやすい。

平時は母乳は決して出ないが、妊娠・分娩後には脳下垂体から泌乳刺激ホルモン(プロラクチン)、オキシトシンが分泌され、このときだけは母乳が生産されるようになる。まれにホルモン異常などの疾患により、妊娠しなくとも母乳が出る場合がある。稀に、男性から出ることもある。

乳房の保護[編集]

思春期・成年女性の乳房は、胸から前に大きく突き出してやや垂れる柔らかい器官である。体が大きく動いた場合には、それとややずれた運動をする。そのため、乳房が大きい女性はそのままでは走った場合などに乳房が弾んで動くことで疼痛を感じる。これを抑えるため、乳房を覆って体に引きつけるための装置が考案されている。いわゆるブラジャーはこの例である。

他の哺乳類の乳房[編集]

哺乳類の乳腺の発達する部位は、左右対称に前足の腋の下から後ろ足の間、恥骨に続く乳腺堤と呼ばれる弓状の線上にある。この上の発達部位の中で、それぞれ哺乳類のによって、特定のいくつかが発達する。前の方が発達する場合、子供は前足の腋の下にを突っ込むことになるし、後ろが発達すれば、腹部下面や鼠径部に乳房が並ぶことになる。

一般的に多産の動物ほど乳房の数は多く、は4個(2対)、は6個(3対)、は8個(4対)、は10個(5対)、は14個(7対)存在する。ただし、個体差が大きく必ずしも個数や位置は一定ではない。乳頭と子が産直後に固定されるものもある。

なお、ヒトにおいても極く稀に本来の発達部位より前(主に脇の下の部分に生じるが、同様に乳腺堤上にあたる腹部の左右から股関節にかけての部位に生じる場合もある)に1対(複数発生例もあり、最大で9対生じる事もあるという)の乳頭を持つ例があり、「副乳」と称される。稀に膨らむ場合もあるが、ほとんどの場合が発達せずホクロのように見える。これは現在、哺乳類でもある人類の、地球上での出現・進化と深く関連していると推測されている。

哺乳類の乳房の所在箇所[編集]

  • バスト
  • 胸~腹~腿のつけね
  • 胸及び腹~腿のつけね
  • 腿のつけね

疾患[編集]

  • 妊娠に関連するもの

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. 1.0 1.1 1.2 コトバンク - 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
  2. マタニティのバストの変化
  3. 3.0 3.1 下着ではじめるからだのエイジングケア・バスト編
  4. 4.0 4.1 思春期前の間、一時的に乳房が乳頭期(II)以降に成長して数ヶ月から3年以内にIに戻る症状として「思春期前乳房隆起」がある(殆どが2歳以下で発症)。Iに戻らなかったり、身長増加速度が異常に高かったり、骨年齢が異常に進むなどの場合は低年齢で思春期に入っている思春期早発症の可能性がある。妹尾小児科・早発乳房
  5. たなか成長クリニック・思春期
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