地下鉄
この項目では、交通機関について説明しています。黒人奴隷解放秘密結社については「地下鉄道 (秘密結社)」をご覧ください。 |
地下鉄道(ちかてつどう)、略して地下鉄(ちかてつ)とは路線の大部分が地下空間に存在する鉄道である。広義で解釈すれば鉄道のトンネル区間や地下駅が存在する区間も地下鉄と呼称し得るが、多くの場合は大都市を中心とした地域に多く見られる路線全体を指す。また一部が地上や高架部分を走っても大半が地下を走っていれば地下鉄となる。
目次
概要
定時性・安全性
地下を通る路線は地下を走行するため景色が存在せず観光用途には向かないが、高架橋の上を通る路線と同様に踏切や交通信号などの存在を介した道路など他の輸送システムとの相互干渉がないため、市街地が密集している大都市の中心部などの本来定時運行が難しい場所でも定時運行が可能であり、踏切事故などの交通事故の危険性も地上の鉄道路線に比べて低い。運転時の視認性が悪いため、信号などの保安装置もより安全なものが採用されていることが多く、衝突事故の危険性も低い。
しかし、低所を走るため排水設備に不備があると水害の危険があり、近年はテロリズムの脅威が認識されている。また、欧米では防火設備の不十分な古い地下鉄も多く、木製の車両やエレベーターが存在しているところもある。
路線の構造
工法にもよるが、地下路線の建設が終了すると地下鉄建設に関係する資材や地下鉄の構造物による地上の土地の占有はほとんど無くなる。地上の構造物に影響を与えることなく地下に路線を建設できる工法もあり、その場合は工事中に道路の車線が減少するなどの地上の交通や都市の景観への影響が少ない。また市街地の地下に路線を通す場合、国によって事情は異なるが多くの場合、法律や地上の土地所有権などが絡む問題を回避する都合から道路(公道)の地下に通すことが多い。道路の地下に路線を建設すると、路線の形状やルートが都市の構造に依存するため、長い直線的な道路が地上に存在しない場所では路線が複雑に曲がりくねったりするほか、細い街路の地下にしか通せない場合、小型の車両を採用した路線になることも珍しくない。そのため、一部の路線で地形の都合や建設費削減のために地上区間や高架区間を併用することもある。
他の交通機関との連携
地下鉄と一般鉄道はハード面では互いに独立したシステムとなっている例が大半だが、ドイツ等では路面電車やバスを含めた大規模な共通運賃制度が実施され、ソフト面で連携が進められている例が多い。一部の路線では交通機関同士でダイヤグラムを調整したり、乗り場を同一平面に置くなど、円滑な乗換えが出来るように考慮されている。一方で相次ぐ路線の増設により、駅が離れていたり、経路の案内がわかりづらかったりと(同じ事業者の路線でも)乗継が不便になっている例もまま見受けられる。
郊外電車網が発達した日本とその技術協力で地下鉄を開業させた韓国では、地下鉄の軌道や電気方式などシステムを接続する一般鉄道のものと共通にして、相互に車両が乗り入れて直通運転し一体の路線を形成する例がある。
なお、郊外電車の運営事業者が都心部で独自の地下線を有するケースがある。この場合、地下鉄と同じ役割を果たしていても地下鉄と認識されない場合が多い。例としてドイツのSバーンの一部(ベルリン、フランクフルトマイン、ミュンヘンなど)、日本のJR西日本JR東西線、阪神近鉄阪神なんば線(いずれも大阪)などが挙げられる。
空港連絡鉄道としても重宝されており、世界の主要な都市の空港では地下鉄が乗り入れを行っているケースが多い。
費用
地下鉄は建設にも維持管理にも莫大な費用を費やす交通機関であることから、大量の輸送需要が見込める都市でないと建設・維持することが難しい。そのため、地下鉄のある都市の多くは100万人以上の人口を抱える都市圏である。さらに建設費の償還や維持費の確保のため、他の公共交通機関と比較すると運賃が割高な傾向がある。建設しても需要が予想をはるかに下回ったとき、路線を管理する団体には非常に大きな負担となる場合もある。さらに発展途上国の場合、維持していけるだけの需要が見込めるにもかかわらず経済的に建設できる能力がないとき、先進国からの政府開発援助(ODA)や世界銀行からの融資によって建設されることがある。
軍事利用
第一次世界大戦・第二次世界大戦の際、ロンドン地下鉄が防空壕の役割を果たしたことから、戦争や自然災害などの有事の際の大規模な避難所としての利用が想定されていることがある。その例として休戦状態の韓国ではソウルや釜山などで地下鉄と共に地下街や地下通路が多く整備されており、軍事都市の側面を持ち合わせている。北朝鮮の首都・平壌の地下鉄は地下150mという大深度に建設され、核戦争に備えている。ブルガリアの首都・ソフィアの地下鉄は駅の入り口に防爆扉がついている。軍事において兵力や物資の輸送も可能であるため、各国の軍隊によって物資輸送演習が行われることがある。
もっとも完全に安全という訳ではなく、日本では太平洋戦争の際、(日本で最初に出来たため)比較的浅いところを走る東京メトロ銀座線で空襲による損傷を受けており、現在でも銀座駅にその痕が一部に残存している。ロンドン地下鉄においても、直撃弾により大きな被害が出た例が複数ある。また、国会議事堂前駅や東京メトロ有楽町線のように有事を想定した建設が行われているという都市伝説が流布する例もある(東京地下秘密路線説も参照のこと)。
歴史
地下鉄の歴史は19世紀のイギリスのロンドンから始まった。1863年1月10日にメトロポリタン鉄道のパディントン駅~ファリンドン駅間、約6kmが開通した(現在のサークル線の一部)。当時のイギリスは鉄道の建設が盛んであったが、ロンドン市内は建物が密集しており地上に鉄道を建設できなかったためである。この路線を計画したのはロンドンの法務官であるチャールズ・ピアソンで、1834年に開通したテムーズトンネルをヒントにしたとされる。車両は開業当初から1905年に電化されるまでは蒸気機関車を使用していた。硫黄を含む煙が発生するため、駅構内は密閉された地下空間ではなく換気性を確保した吹き抜け構造となっていたほか、路線の一部も掘割であった。
英語で地下鉄を意味する「メトロ」という単語の語源は、この「メトロポリタン鉄道」に由来している。
イギリスでの開業後はしばらく間があき、30年近くたった19世紀末~20世紀初頭に欧米の各地で建設されていく。1896年にハンガリーのブダペストで2番目の地下鉄が開業[1]した。当初から電化されており、これは地下鉄としては世界で最初の電化路線であった。さらに1898年にはアメリカ合衆国のボストン、そして1900年にはフランスのパリにおいて開通した。ドイツのベルリンでも1880年頃には地下鉄を通す計画が存在したものの反対勢力によって計画が遅れ、開通は1902年であった。
第一次世界大戦が開戦するまでには西ヨーロッパや北アメリカの大都市に、第一次世界大戦中から20世紀半ば頃まではヨーロッパ各地の中都市や日本を中心に建設が行なわれていたが、1970年代以降はアジアなどの発展途上国での建設が盛んになった。
構造
路線
一般的に地下鉄と呼ばれる路線でも高架区間や地上区間を有することはあるが、トンネル構造物が区間の大部分を占める地下鉄では保守点検作業に多くの手間が掛かる。そのため、それを少しでも減らすために維持の手間が少ない直結軌道やスラブ軌道の路線を採用していることが多い。この方式では床や枕木にコンクリートを使用するため、砂利を敷き詰めるバラスト軌道に比べ寿命が長く、車体への負担も少ないという利点がある。その代償に初期費用がバラスト軌道に比べて非常に割高である。
世界の全ての地下鉄が電化されている。その電源・集電方法は国や路線によって様々である。電源は直流600~1500Vが主に使われている。交流を採用している路線は、インドのデリー(25000V 50Hz)のみである[2]。アジアでは750Vと1,500Vが、ロシア・東ヨーロッパでは825Vが、西ヨーロッパや北アメリカでは600Vから750Vが、南アメリカでは750Vや3,000Vが主流である。集電方法は第三軌条方式(および第四軌条方式)と架空電車線方式があるが、国や地方同士の中でも混在しており、分布の偏りは見られない。なお、第三軌条方式は鉄道が走行する2本のレールに平行して3本目のレールを敷設し、このレールを通じて電源を供給する方式である。地下鉄において集電方法に第三軌条方式を採用すると架空線の場合よりもトンネルの断面積が狭くなり、建設費用が抑えられる。同じ目的で日本などの一部の国では鉄輪式リニアモーターカーも採用されている。
駅
地下鉄の他に地上の鉄道路線や高速鉄道などの複数の路線が乗り入れるターミナル駅は地上構造物を共有している場合があるものの、地下鉄のみの駅は地上に駅舎の設備を備えず全てを地下に備えている駅が多いことが特徴的である。
多くの地下鉄駅の場合、地上の構造物はいたってシンプルであり、地下へと繋がる昇降設備、つまり駅への入り口のみで構成されている。だが、地上・地下への階段の昇り降りは、障害者や高齢者にとっては地下鉄の利用の妨げとなっている。そこで、近年各国で新設されている路線ではこれらの人のために、エスカレーターやエレベーターを設置するなどして駅をバリアフリー化する試みが行われることが常である。
地下鉄しか乗り入れていない地下鉄駅の入り口はバス停留所のように歩道へ設置されていることが多く、一目で地下鉄駅だと認識できるような工夫がされている。この例として、地下鉄を運営する団体や路線のロゴを掲げたりペイントアートを行ったりする例が挙げられる。また、駅構内の広大な壁面を利用し、広告の掲示や絵画などの美術作品の展示が行われることもある。
地下鉄のプラットホームは地下にあることが多い。地下にある場合、換気設備や消火設備の重要性が特に高いため、常に整備する必要がある。しかしながら、駅の構造や予算の問題等で十分に整備が行き届いていない路線が多いのが現状とされる。1990年代以降に建設された一部の路線には、落下防止柵やホームドアの設置といった安全対策も行われている。また、地理や言葉に不慣れな乗客のために構内の放送だけでなく、プラットホームに列車の行先・種別を表示したり、駅名をアルファベットで表記したり、案内用として各駅に固有の番号を付けたりする(駅ナンバリング)など各種の配慮が講じられるようになってきている。
車両
開業当初のロンドン地下鉄の車両は蒸気機関車だったため、石炭を燃焼した際の煙を水槽内の水に通過させることにより空気中に排出される煙を抑える構造を備えていた。
その後は電気鉄道となるが、概ね幅2500mm程度、長さ15000mm程度の小柄な車両が用いられた。その後、幅2800mm、長さ18000mm程度までに大型化する。第二次世界大戦後はさらに車両が大型化し、東アジアでは幅2800~3200mm、長さ20000mm程度の大型車両が用いられる例(東京、ソウル、シンガポールなど)もある。一方で建設費の点でトンネル断面を小さくした結果、車両も特殊な小型車とする例(イギリス・ロンドンのチューブ、グラスゴー、ブダペストなど)もある。
車両性能は高速性能より高加減速性能や登坂性能が重視される。このため、電動車の比率が高い。道路下など狭隘な土地に建設されるために急曲線・急勾配が多く、駅間距離も短いためである。
車体は大量の人員を輸送する関係で多くの扉が取り付けられている。全長18000mm以上の車両を中心に片側4扉以上の車両もあるが、世界的には1両当たり片側3扉が主流である。また列車の編成長は欧米で100~120m前後、アジアでは200m程度のものもみられる。
座席は欧米ではクロスシートの例が多く、アジアではロングシートが多い。また宗教的な理由や痴漢対策という観点から女性専用車両が導入されている国がいくつかある。
素材には外板には燃えにくい金属材料を使用するのはもちろんのこと、内装材にも不燃性、難燃性の素材が推奨されている。これは避難経路の限られた地下空間での火災の発生が大惨事を招く可能性が高いためである。しかし内装材については、日本などの一部の国を除いては依然として可燃性の素材が用いられていることが多い。中には古い全木製の車両が走っている地下鉄もある。
地下鉄車両の冷房化はそもそも欧州では必要なところが少ないが、それ以外でも遅れた。これには以下の理由がある。車内を冷房すればそれによって発生する熱が車外に放出され、トンネル・駅が暑くなる。次に冷房用の低電圧の電気を生むには車両に積んでいる様々な機材に対してそれ用の発電設備を別に積まなくてはならず、その場所を確保できなかった。そもそも第三軌条を採用した地下鉄には、冷房装置を積むだけの空間がなかった。
しかし、技術の進歩によってこれらは解決された。大きな要因は制御方式に抵抗器を用いないサイリスタチョッパ制御やインバータによる可変電圧可変周波数制御(VVVF制御)が普及したことがあげられる。これによって車両から熱源を無くすことが可能になり、さらに冷房用の電源を積むスペースもできた。その電源には電動発電機より小型のSIV(静止型インバータ)を採用することで、より省スペース化を図ることができる。冷房装置そのものについても小型化がすすみ、第三軌条の車両でもその天井に薄型のものを置けるようになった。
現存する特殊な車両を用いる例として、ゴムタイヤ式が挙げられる。フランスと日本でそれぞれ開発された。フランスで開発されたものはカナダのモントリオールで万国博覧会の際に最初に建設された。これはゴムタイヤを使用した最初の路線であった。通常のレールと車輪を案内とし、その外側にゴムタイヤとその踏板を設ける方式である。他にパリ、メキシコシティでも同様の方式が採用されている。これに対し、日本の札幌で実用化されたものは走行用のゴムタイヤのほかに中央に1本の案内軌条を作り、それをゴムタイヤで挟む方式である。ゴムタイヤ方式では騒音の発生が少なく、発車時の加速や停車時の減速が滑らかであるという特徴を持つが、消耗したタイヤの粉塵が舞うことから健康被害を心配する声もある。
また1980年頃からは性能を保持したまま車両を小型化することが可能なリニアモーターを搭載した車両が登場した。
車両の搬入については地上に置かれた車両基地へ送る、地下の車庫の直上に搬入用の穴を設けてクレーンで下ろすといった方法がある。車両メーカーからの車両基地への輸送方法は乗り入れ先の地上を走る鉄道線経由で送り込む、他の鉄道路線との物理的な接続がない場合には一般道路をトレーラによる陸送で送り込む方式が採られている。
建設工法
地下鉄の建設方法は他の地下構造物の建設と同様に様々な種類があるが、その中でも特に主流を占める工法は開削工法(オープンカット工法)とシールド工法の2種類である。
開削工法
地面の土を掘り返し、路線を建設した後に埋めなおすという工法。工事費が安く工期が短いのが特長で、1980年代まで世界各地の地下構造物の建設工法として主流であった。一方で地面を開削することに起因する制約も多く、地面から深い場所や路線の上に建造物や河川などがある場合は使えない。日本の京都のように地下に多量の埋蔵文化財(遺跡)を抱えている都市では開削工法による工事の前に埋蔵文化財の発掘調査が必要になり、その分の経費と時間が必要となる。また道路上を開削するため道路交通の障害になるという問題もあるが、交通量の多い時間帯には工事を止め、開削した穴を一時的に鉄板で覆って上部を通行可能とすることである程度緩和することができる。
シールド工法
シールド工法は横から掘り進むことによってトンネルを掘る工法。地下鉄の深さまで垂直に穴を掘った後、路線を建設する予定の空間にシールドマシンと呼ばれる円筒状の機械で掘り進みながらトンネルを造っていく。複数の路線が地下で立体交差する場合や既設の地下鉄路線や下水道などの地下構造物が近くに存在したり、駅の地下空間に既に何らかの建造物が存在する場合には有利であり、さらに地上の交通に殆ど影響を与えないといった利点を持つ。現在では地下にも多くの構造物があり地下鉄路線自体も以前に比べて地下深くに建設されるようになってきたため、地下鉄路線の建設はシールド工法が中心になってきている。しかし面積が広大である駅舎や地面から浅い場所で特に地上交通に配慮する必要がない路線は開削工法が有利であり、どちらの工法も状況に応じて利用されている。
その他の工法
岩盤が特に固い場所などでは掘削した部分を素早くコンクリートで吹き付けて固め、ボルトで固定する新オーストリアトンネル工法(NATM)が用いられることがある。また河川の下では潜函工法(ケーソン工法)や地上で造ったトンネルユニットを水中で連結する沈埋工法が用いられることもある。また、掘削部に近接してあるいは直上に既存の建造物の基礎や杭あるいは下水管などがある場合、その沈下を防ぐためそれらの荷重を代わりに受ける構造物を構築した後に掘削を行い、トンネルや駅設備を設けることがある(アンダーピニング工法)。いずれも限られた場所でのみ用いる工法である。
運営
地下鉄の管理団体は2種類に大別される。一つは政府や自治体といった公営と呼ばれるもので、もう一つは民間企業の民営(日本でいう私鉄)と呼ばれるものである。また、そのどちらもが混在している第三セクター[3]と呼ばれる形態も存在する。もっとも、一見民営企業であってもその出資者は地元自治体のみで実質公営という事例が欧州を中心に多数存在する。
ロンドンでは当初、民間のいくつかの鉄道会社が地下鉄路線を建設し、統一性や計画性のないまま各々の会社が運営していた。しかし1933年に全ての路線が公的な団体として統合された。その後現在では1社の民間企業として運営している。このように運営団体が変わることも珍しくないほか、地下鉄路線の建設が非常に高額なために公的な団体が路線を建設し、民間企業が運営にあたる例もある。
運賃は乗る時間・距離を問わず定額である場合が一般的であるが、日本を中心とするアジアの路線では距離(区間)に応じて運賃が増加するシステムを採用している。ドイツを中心とするヨーロッパでは、地下鉄を含めた交通機関に対してゾーン制と呼ばれる統一の料金システムをとっている。ゾーン制では中心部とそこから放射状にゾーンを設定する。同じゾーンの中では料金は均一であるが、ゾーンをまたぐにつれて運賃が増加するというものである。なお、欧州を中心に、交通事業者の連合体が結成され、交通機関の共通運賃制度がとられている例も多い。
多くの路線では自動改札が導入されている。これは大量の人員を捌くためだけでなく、維持費を削減する目的もある。自動改札には専用の切符やカードといった乗車券を挿入して扉を開けるものと硬貨を入れることで回転棒が回るものの2種類が一般的である。特に日本の地下鉄では磁気情報が記録された切符を自動改札で読み取り、入出場の記録を取って運賃不足を自動判断できる高性能な改札機がひろく使用されている。また、ICカードを用いた運賃収受システムも急速に普及しつつある。
一方で、ドイツ、オーストリアなどではセルフサービス制が実施されている。これは駅の改札等を一切廃止する変わりに、抜き打ちの車内検札を行うものである。この場合、正規の切符を所持していない場合、正規料金の8倍以上の罰金が請求される(これらの国では、他の市内交通機関でも同様の制度が敷かれている)。
列車運行
市内交通のため「待たずに乗れる」ことが要求される。そのため列車の運行間隔は10分以下程度に設定されている。特にモスクワなどでは混雑時に1分程度に設定されている。また列車は各駅に停車するものが大半だが、東京では一部の路線で緩急運転を実施。ニューヨークでは複々線や午前と午後で進行方向が逆になる単複線区間が多く存在することから、ほとんどの路線で急行と各駅停車の2種類の列車を走らせている。
日本や韓国では郊外鉄道と地下鉄の規格を統一し、直通運転させている。
世界の大部分の路線では深夜0時から早朝4時の時間の運転を行なっておらず、深夜0時に運転を終え、早朝から運転を始める。これは保守の時間帯を確保するためだと言われている。シカゴやニューヨークは数少ない例外で、24時間の終夜運転を行なっている。ニューヨークの複々線や単複線区間では深夜の時間帯や週末は2軌道のみを営業運転に使用し、残りの保守にまわすことができるためである。
地下鉄の安全性
地下鉄は雪や雹(ひょう)などには強いものの、地震や水害、火災、テロリズムなどには弱く、地下鉄の構造上、これらの被害にあった場合大惨事になる可能性が極めて高い。そのため安全に関する取り組みは開業以前から研究され続けている。
地震
かつては地下鉄は地震に強いとされていた。しかし、阪神・淡路大震災で神戸市営地下鉄、神戸高速鉄道で多大な被害を出した(特に神戸高速鉄道の大開駅は上の道路が陥没するほどの被害となった)。後の研究で路線が地下を走行する都合上、路線区間はトンネルとして建設されているため、地形が大きく変動することのある地震には弱いことが分かっている。地盤の柔らかい土地では特に注意が必要である。また、路線上の地面が低海抜の場合は、防波堤の決壊により海水が流入することが想定されるので下記の水害を併発する恐れがある。
水害
地下鉄のシステムは地面よりも低い位置にあるため、地上に降り注いだ雨などの水が地下鉄の設備に浸入してくる。そのため十分な防水・排水設備を持たない場合、水没することもあり得る。このため、地上の駅への出入口を一段高くしたり大雨の時などは駅出入口の防潮板や線路上の防水扉を展開して閉鎖されることがある。東海豪雨などの浸水などがその例である。
火災
古くに建設された地下鉄駅では防火対策が十分になされておらず、駅構内で火災が発生した場合、瞬時に煙が充満し被害が一層深刻化することも問題視されている。この例としては1987年11月18日、ロンドン地下鉄キングズクロス駅で起きた火災で31名が死亡した事件が挙げられる。ロンドンの地下鉄には古い木造の構造物が多く残っていた事が指摘されたが、これをきっかけにして日本では地下鉄駅構内の終日全面禁煙が実施された。また、2003年2月18日に韓国の大邱広域市の駅構内で発生した放火による地下鉄火災(大邱地下鉄放火事件)が挙げられる。この火災は2編成12両を全焼し死者192名、負傷者148名を出したが、被害がここまで深刻化した原因としては車両の内装に可燃性の素材を使用していたことと駅構内の排煙設備の不備によることが主で、車両の材料が燃焼した際に生じた一酸化炭素などの有害な物質による中毒により死亡した者が特に多かった。また、死亡者には火災現場に後から入線した列車の乗客で当該列車が延焼しはじめた際、運転士が逃げ出すときに運転キー(マスコンキー)を抜き、自動的に扉が閉まった状態になってしまったため、車両に取り残されて焼死した者も多い。
テロ事件
1995年3月に東京で起こったオウム真理教による地下鉄サリン事件や2005年7月にロンドンで起こったロンドン同時爆破事件に代表されるように、地下鉄がテロリストの標的にされやすいことも問題となっている。また、2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件ではテロリストの直接の標的にはならなかったものの、倒壊した世界貿易センタービル(WTC)の直下に地下鉄の駅があったため、建物の下敷きになって押し潰されたことで駅が破壊され、多数の犠牲者を出すこととなった。
人身事故
前述の様に、トンネルの断面積を狭くすれば地下鉄の建設費用は安く済む傾向にある。同様に地下駅のプラットホームもなるべくなら狭い方がよい。しかしここで問題になるのが人身事故である。通勤・通学のラッシュ時、催事のある時などには大勢の人がプラットホームに集まり、人身事故の起こる確率が高くなる。これを解決するために、ホームドアや可動式ホーム柵が採用されることが増えてきている。ロンドン地下鉄の一部駅などではレールを道床から高くかさ上げして敷設し、転落者を道床に落とし込んで触車させないような構造がとられている。
世界の主要な地下鉄
ヨーロッパ
ヨーロッパではロンドンでの開通以来、20世紀半ばまでに主要大都市の多くに地下鉄路線が建設された。
- イギリス
- 世界で最初に開業した地下鉄であるメトロポリタン線は1860年に工事に着手し、3年後の1863年に開業した。営業状況は開業当初から大変良好で、開業初年度は約950万人の乗客を運んだ。当初は車両に蒸気機関車を採用していたが、1905年に電気を動力源とする電車に切り替えた。ロンドン地下鉄ではこれに続き1886年にはマージー線(1903年電化)や郊外からの鉄道の地下区間がそれぞれ開通したほか、20世紀前半までにほぼ現在の路線網が完成するに至った。ここまで盛んにロンドンに地下鉄が建設された背景にはロンドンの市街地は道が細く入り組んでおり、地面や高架橋に走らせることが困難であったことに加え、地上の景観を損ねるわけにいかなかったことなどがある。
- グラスゴーなど他の都市にも地下鉄があるが、多くはロンドンの場合と同様、狭いトンネル断面に合わせた小型の車両を用いている。
- ドイツ
- ドイツではU-Bahn(ウーバーン)と呼ばれるものが一般的に地下鉄と認識されている(同じドイツ語圏であるオーストリアでも同様)。他国の地下鉄と形態の近いUバーンは現在、ベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、ニュルンベルクに存在する。これら4路線とも、第三軌条集電方式を採用している。
- 首都のベルリンに地下鉄を建設する案は1880年に浮上していたが、地下水が多く地下鉄には不適な地質だとされた。それが理由の反対運動によって計画が進まなかった。しかし建設技術の発達や他所での成功から建設推進の動きが活発化し、1902年にベルリン地下鉄が開業した。その後、1912年にハンブルクで開業。残る2都市は、東西分裂時代にいずれも西側で建設された。
- 一方、フランクフルト・アム・マイン、ケルン、シュトゥットガルト、デュッセルドルフ、エッセン等には、パンタグラフ集電の小型電車を使用したシュタットバーン(Stadtbahn:軽快電車網)の地下線が存在する。既存の路面電車を都心区間では主に地下化、郊外では専用軌道化することで高速化を図ったものである。北米でのライトレールに影響を与えた[4]。なお、これらシュタットバーン地下鉄のトンネルや車両断面はベルリンなど同じ基準に従って設計されており、法制度上も地下鉄であるがU-シュタットバーン(U-Stadtbahn)として区別されることが多い。
- フランス
- フランスでは2005年現在、地下鉄(メトロ)と呼ばれるものはパリ、リヨン、マルセイユ、トゥールーズ、リール、レンヌ、ルーアンの7つの都市に存在する。このうち、ルーアンのものは地下区間を持つLRT(トラム)に過ぎない存在である(統計上もトラムに分類される)。リール、トゥールーズ、レンヌの地下鉄はVALと呼ばれる新交通システムを用いた地下鉄であり、小形車両・全自動運転を特徴としたミニ地下鉄である。この中でも首都のパリは14本の地下鉄路線を持っており、フランスでは飛びぬけている。パリの路線では1から14号線まである路線のうち1、4、6、11、14号線の5路線がゴムタイヤ方式の車両を使用しているほか、14号線では無人運転に加え、安全対策のためホームドアが設置されている。パリではこれらの路線は総称して「メトロ」と呼ばれている。パリの一部路線とLRTであるルーアン以外の地下鉄は、すべてゴムタイヤ式である。
- フランスの地下鉄全てに共通している点として、運賃制度が均一制であることや直流750Vの電源を使用していることが挙げられるが、軌間や集電方式、運転保安システムにはばらつきが見られる。また、パリ、マルセイユ、トゥールーズ、リール、レンヌでは進行方向に対し右側通行であるが、リヨンにおいては左側通行となっている。
- パリにはメトロ以外にもRER(首都圏高速鉄道)と呼ばれる地下線で都心に直通する鉄道網が存在している。地下鉄とは別個のシステムであるが、都心部ではRERも地下鉄のネットワークの一部として利用されており、都心部のみの利用ならば運賃もメトロの路線と共通の均一料金で利用できるため、パリの地下鉄の一部として扱える存在である。RERは5路線あり、路線毎にRATPとSNCF担当に分かれているが、料金は共通である。
- ロシア
- ロシアでは1935年にモスクワに開通したのが最初である。モスクワの地下鉄は世界的に見た場合、地上から非常に深い区間が多く、駅構内は豪華な内装で飾られている。多くが花崗岩や大理石で装飾され、壁面や天井にはタイルアートや彫刻が施されている。軌道はロシア鉄道と同じ軌間1524mm。建設はスターリンの厳命の元、昼夜を問わず突貫工事で進められ、革命記念日祝賀行事に間に合った。
- サンクト・ペテルブルクやトビリシ、バクー、タシケントなど他のロシアおよび旧ソ連の都市にも地下鉄が存在する。構造は概ねモスクワのものと類似している。
- ベルギー
- ベルギーには首都・ブリュッセルに第三軌条式の地下鉄路線があるほか、路面電車の一部区間を地下化したプレメトロという路線もある。プレメトロは地下鉄導入に先立って都心部の需要の多い区間のみトンネルを建設し、地下鉄開業までの間は路面電車のトンネルとして利用するものである。そして、全線のトンネルが完成した段階で、本格的な地下鉄に移行するものである(なので、先行地下鉄Premetroと呼ばれる)。現在運行中の第三軌条式の地下鉄も、当初はプレメトロとして段階的に整備されたものである。
- オランダ
- 首都アムステルダムに第三軌条式の地下鉄ネットワークが存在している。アムステルダムの地下鉄は路線の大半が地上の高架区間である。また、一部の路線は郊外部で路面電車と線路を共有しており、パンタグラフと集電靴の両方を備えた複電圧車が専用で使用される。この地下鉄とLRTを直通する路線は、シュネルトラム(オランダ語で急行路面電車の意味)と呼ばれる。
- スペイン
- マドリッド、バルセロナ、ビルバオ、バレンシアに地下鉄がある。スペインの地下鉄は、すべて架線集電式なのが特徴である。ビルバオの地下鉄は既存の鉄道線を流用した関係上1mゲージになっている。
- ハンガリー
- ハンガリーの首都・ブダペストの地下鉄は世界で2番目に開業した地下鉄であり、世界初の電気運転の地下鉄である。ブダペストの地下鉄は3路線あり、一番古い1号線は架線集電・小形車両を用いた路線でトンネルも浅いところに掘られている。2号線・3号線は戦後ソ連の技術を用いて建設された第三軌条式の路線で、他のソ連製地下鉄同様のデザインの電車、深いトンネルが特徴である。
北アメリカ
- アメリカ
- アメリカでは1904年にニューヨーク市地下鉄が開業して以来、ニューヨークではマンハッタン島を中心に路線を形成、総延長は1,000kmを超える。たびたび映画の舞台として登場する。他の都市でも地下鉄の建設が進められ、現在20都市以上にあるうちの大半は東部~中東部地方(ボストン、フィラデルフィア、ワシントンD.C.など)に集中している。そのほか、中西部~西部(ロサンゼルス、サンフランシスコなど)や海外領土のプエルトリコ(サンフアン)にも地下鉄がある。
- 特にサンフランシスコのBARTは全米で最も優れた輸送システムである。また、首都・ワシントンD.C.のワシントンメトロはアメリカで最も近代化された地下鉄網を形成している。
- シカゴのものは路線の大半が高架などで地上に存在し、地下区間は僅かだが地下鉄の範疇に含まれている。
- メキシコ
- メキシコの首都・メキシコシティにある地下鉄は1969年に開通した。同地下鉄は世界で初めて各駅にシンボルを設けたことで知られる。また、料金が全区間均一であることでも知られる。グアダラハラとモンテレーにも地下鉄がある。
南アメリカ
南アメリカで初めて開通した地下鉄は1913年12月、アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスである。その他、南アメリカ大陸の中で地下鉄がある国はブラジル、チリ、コロンビア、ベネズエラの合わせて5か国である。
- ブラジル
- ブラジルでは、2005年現在、サンパウロ市など6つの都市で地下鉄が運行している。これらの地下鉄は全て1970年代以降に造られたものであり、いずれの都市でも1~3路線程度しか保有していない。軌間は全て広軌に分類される1,600mmを採用しているものの全ての都市に共通している点はこの点のみであり、他の技術面ではそれぞれの都市で大きく異なっている。
アジア
アジアで最初に地下鉄が走ったのは日本においてである。日本では大都市部に人口が密集しており、地下鉄を建設するには都合の良い都市構造であるため、特に地下鉄路線が盛んに作られる。アジアの地下鉄は20世紀後半以降に飛躍的に発展したが、これは交通渋滞緩和を目的とした地下鉄建設が主流であったためである。第二次世界大戦後の独立や経済成長などによって都市化が進み、地下鉄の需要が高まった。また、日本や石油産出国などを除いた場合、政府開発援助などによって建設された路線の割合が高いというのも特徴のひとつである。
- 日本
- 日本では、本格的な地下鉄としては1927年(昭和2年)12月30日に初代「東京地下鉄道」により、現在の銀座線の浅草駅と上野駅の区間が開通したのが最初である。1933年(昭和8年)5月20日には初めての公営地下鉄として大阪市営地下鉄御堂筋線の梅田駅と心斎橋駅の区間が開通した。それら以前にも、1915年(大正4年)には東京中央郵便局と東京駅の間の地下を走行する郵便物輸送専用の地下鉄が存在していた。
- 大阪市では戦時中も資材不足に苦しみながらも1942年(昭和17年)まで路線の延伸が進められた。第二次世界大戦後は大阪市のほか、公営路面電車が走っていた政令指定都市[5]での代替交通手段として、公営地下鉄の建設・拡充が進んだ。背景には、渋滞の深刻化に伴い路面電車の定時運行が難しくなったことがあるとされる。1980年代後半頃[6]から、建設費圧縮のためリニアモーターによるミニ地下鉄も一部で建設されている。
- 中国
- 中国では、1969年に北京で地下鉄が開業した。しかし地下鉄の整備は1978年の改革・開放政策まで十分には行われなかった。1980年代以降、外資の導入による近代化政策のもと都市部において地下鉄の建設が行われた。上海では1990年代以降の相次ぐオフィスビルの建設により地下鉄の路線網の拡充が急務となっていた。このため中国の地下鉄は、国産技術を主体とした北京地下鉄などの北方グループと外国技術を主体とした上海地下鉄などの南方グループに大別される。
- 1997年にイギリスから返還された香港においては、イギリス統治時代に建設された香港MTRが返還後も継続して運行されており、新線も建設されている。
- 韓国
- 韓国ではソウルで、1974年に初の地下鉄路線が開業して以来、およそ30年の間に釜山・大邱・仁川・光州・大田といった地方都市でも開業した。日本からの政府開発援助・技術援助などを活用して多くの路線が整備されている。北朝鮮との準戦時体制にある韓国では、有事の際の避難所として有効に使える地下空間の利用が盛んで、特に首都のソウルでは地下街と共に大規模な路線網が形成されている。韓国ではいずれの都市の地下鉄も公社が運営している。
アフリカ
アフリカは第二次世界大戦後の1960年ごろまで多くが欧州先進国の植民地であったが、その間地下鉄は建設されなかった。2005年現在、地下鉄が存在する都市はエジプトの首都であるカイロのみである。アルジェリアの首都であるアルジェでは建設中ではあるが、まだ開通の目処は立っていない。ナイジェリアのラゴス、エチオピアの首都アディスアベバでは、地下鉄建設は計画の段階である。エジプトでは痴漢対策および宗教上の観点から女性専用車両が導入されている。
特殊な地下鉄
- アメリカ合衆国の首都・ワシントンD.Cにはアメリカ合衆国議会議事堂と議員会館を結ぶ議員・議会関係者専用地下鉄であるアメリカ合衆国議会地下鉄がある[7]。
- グルジア共和国のアブハジア自治共和国 Gudautaには世界で唯一の観光用地下鉄が存在する[8]。
脚注
- ↑ この前、1875年にトルコのイスタンブールで地下ケーブルカー(イスタンブル・トンネル)が開業している
- ↑ 事実上地下鉄と同一の機能を果たしている都市の地下路線では、交流電化の例がある。ドイツのミュンヘン、フランクフルト、シュトゥットガルトのSバーン(15,000V 16 2/3Hz)、韓国のソウル市周辺の韓国鉄道公社(首都圏電鉄)果川線、盆唐線(25,000V 60Hz)がこれに該当する
- ↑ 日本の「第三セクター」は国や地方公共団体と民間が合同で出資・経営する企業をさすが、世界的にみてThird Sectorは民間による非営利団体・慈善団体を意味するのが一般的となっている。地下鉄の運営にあたっているのは日本的意味合いの「第三セクター」である。
- ↑ カナダのカルガリー、エドモントン、アメリカのサンディエゴ等が該当し、フランクフルトと同型の車両を使用した。
- ↑ 名古屋市・東京都・札幌市・横浜市・神戸市・京都市・仙台市など。他に政令指定都市では福岡市にも市内路面電車があったが公営ではなく、西鉄の福岡市内線であった。
- ↑ 開業は1990年代以降。
- ↑ http://www.clouse.org/capitol1.html
- ↑ http://metro-novyafon.narod.ru/
関連項目
参考文献
- 社団法人日本地下鉄協会編 『最新 世界の地下鉄』ぎょうせい、2005年5月、ISBN 4324074712
- 社団法人日本地下鉄協会編 『世界の地下鉄 115都市の最新情報』山海堂、2000年6月、ISBN 4381014227
外部リンク
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