若者の車離れ

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若者の車離れ(わかもののくるまばなれ)とは、日本において、主に30歳代以下の年齢層が四輪自動車を所有・運転しなくなる(できなくなる)社会的傾向を意味する言葉である。本項目においては主に四輪車について述べる。なお、二輪車においても同様の現象が見受けられる。

概要[編集]

2000年代初頭から日本国内での新車・中古車販売が伸び悩む中で、その原因のひとつとして「若者層の自動車離れ」が叫ばれるようになった。また、このことは「現代若者論」の一環としても論じられている。ただし、統計上の日本国内での自動車販売台数の減少傾向は「平均使用年数」の長期化傾向によるものであり、自動車保有台数そのものは頭打ちながらも増加傾向にある。

若者層の車離れに対し、調査により以下の要因があげられている。

  1. そもそもクルマを買えない。維持できない
    1. 若者層の所得の減少や雇用の不安定化などによる購買力の低下。雇用の不安、給与の低下(低所得)などにより、(仕事で必要があって)運転免許を取得できても、自分の車は持つことが難しい。仮に中古車の車両本体価格を支払えたとしても、その後の維持費を捻出するのが厳しくなる。
    2. クルマに金がかかりすぎる。高額な車両価格と維持費(自動車税自賠責および任意保険料車検代・燃料代・駐車料金など)の経済的な問題。特にスペシャリティカーに対しては日本の若者に売れない→海外や中高年をターゲットに→若者のニーズに合わずさらに売れなくなると言う悪循環に陥っている。
  2. クルマを持つ理由・メリットがないか、メリットを打ち消してしまう要因がある。
    1. 車以外の物の関心、必要性の高まりなど、趣味の多様化。
    2. 鉄道・バスなどの公共交通機関が充実しているため車を買う必要性がない、などの地理的要因(都市部固有の要因だが、東京一極集中によりこの傾向が強い。)。
    3. 車を所有・利用する上で、デメリットへの意識が大きくなった。特に交通事故の加害者になった際や、交通違反を犯した際に刑事民事行政で多大な責任を負うリスク(自動車運転過失致死傷罪損害賠償罰金反則金の出費など)や交通取り締まりなど。
    4. 競争・差異化意識が低下し、車の所有価値が低下。
    5. オートマチック限定免許の制定により、車が「白物家電化」して単なる「移動手段」でしかなくなった。特に同居の者に限定免許の者がいると欲しい車の選択肢が少なくなる。当初、自動車保有者を増やすために制定されたはずの限定免許が、日本国内の自動車台数が飽和状態になると逆に車離れを引き起こした。
    6. 先述の法制定の影響により、国内自動車メーカーにおいては、エコカーミニバンコンパクトカーなど、実用性・エコロジー・経済性を追求・偏重した商品ばかりが持てはやされ、売れ線としてラインナップを増やされてきた一方、スポーツカースペシャリティカーといった走りの楽しさやスタイリングなど「自動車に乗る・所有することを楽しむ」という自動車本来の魅力をセールスポイントとする車種のラインナップが非常に乏しく、この種のタイプの車種に若者をターゲットとしたものが実質的に無くなったこと。
    7. 無料ないし安価な駐車場が確保できない。地方の集合住宅では、部屋数と同数(1部屋に1台分)の駐車場が確保されているうえ、料金も低額ないし家賃に含まれる(実質無料の)場合も多いが、都市部では部屋数と同数の駐車場がない場合が多く、駐車場利用料も別途高額であり、その確保と月極料金は負担となる。
    8. レンタカーカーシェアリングの台頭。すなわち、自動車は必要な時だけレンタル利用で済ませ、買わなくなる。また日本での高額な維持費を背景に、時に経済アナリストが「クルマを持たずレンタカーやタクシーで済ませよう」と言う旨の発言をすることがある。
  3. 市場の縮小。
    1. 単身・夫婦のみ世帯の増加。特に親と同居している独身者層の新車購入率の極端な低下。
    2. 少子化社会に代表されるように、若者の絶対数が年々減少していること。

こうした要素が複雑に絡み合い、自身で車を所有・購入する必要性が薄れ、自動車を「所有しない」あるいは「所有できない」傾向が若年層でとりわけ目立つようになったとされる。

原因[編集]

この問題について多くの調査が実施されているが、例えばマーケティング調査機関であるM1・F1総研が首都圏を対象に18歳から49歳の男女から集計した調査によると、若者の自動車離れの主な要因は「経済的理由」や「都市部固有の要因」、「趣味の多様化」にあるとの分析結果が得られている。

経済的理由[編集]

1990年代後半から顕著になった若年層の雇用不安(就職氷河期非正規雇用化など)により、若年層の個人消費が大きく低迷し、数十万円から数百万円といった高額消費が厳しくなった(自動車産業自体が非正規雇用と海外生産への移行によって雇用不安を加速させた)。また自動車税自動車重量税自動車取得税などの税金自動車賠償責任保険を含めた自動車保険、燃料代、駐車場賃借料金、車検費用など、自動車を所有・利用するにあたり発生する、各種維持費(年に数万円単位)が容易には賄いきれなくなった。日本における自動車の維持費は諸外国に比べても高いと言われている。また、震災後の中古自動車市場の価格高騰などから二輪車(特に原付きバイク)への乗換えが増加し、下火であった二輪車の売上げが増加している。

趣味の多様化[編集]

携帯電話パソコンゲーム機スマートフォンなど、自動車以外の趣味が多様化したことも要因の1つとして挙げられている。

地理的要因[編集]

マイカーの利便性が低い、または他の交通機関の利便性が高い都市環境が原因でクルマ離れが促進されるケースも存在する。一例として宇都宮市は平坦地かつ年間降水量が少なく、冬季の日照時間が長いという地理的条件、自転車関連施設(駐輪場や自転車レーンなど)の整備率の高さ、そして市内の道路のキャパシティが低く慢性渋滞が起こりやすいというマイカー利便性の低さなどから、市民の多くはマイカーを敬遠し自転車を利用する傾向にある。

都市部固有の要因[編集]

車の購買を検討しない層のうち7割は、都市圏の公共交通の利便性の高さを要因に挙げている。都市圏の郊外都市では、自治体によるバス路線の再編やパークアンドライドサイクルアンドバスライドの整備などによりバスの本数・路線数やサービスなどが充実化され利用者が増加傾向にある。

2011年東日本大震災以降は交通機関の乱れから通勤用としてスポーツ用自転車が見直され対前年比23%の売れ行きを示した。

観光地と都市部の要因[編集]

京都奈良日光などの観光地は、観光シーズンになると自動車の交通量が増え、圏内移動では渋滞に巻き込まれる可能性が高く、ほとんどの駐車場が有料で、かつ短時間の利用でも(1時間あたり数百円と)高額であることが多い。また、観光客輸送の需要があるため公共交通機関が発達している(例:電車やバスの本数が多い)といった観光地独特の交通事情から、住民は生活における自動車の利用を敬遠する傾向にある。

街の特色における理由[編集]

京都市は「自転車の街」といわれるほど、住民の自転車利用が多いといわれている。</br> これはDID人口に対し面積が狭く、なおかつ自動車の交通量が多いことから、結果的に自転車を利用した方がかえって目的地に素早くたどり着くことも多い。また、一極集中という特色から自動車を保有することに対してのデメリットが大きく、自動車に対してよい印象を持っていないとの指摘もある。

「どうして必要なんですか?」--"若者○○離れ"の背景にあるもの[編集]

「若者の○○離れ」という言い方は多い。オヤジ世代が若い頃に当たり前だった行動が、今の若者世代には当たり前でなくなっていることを意味する表現だ。

「自分が新入社員の頃は、社会人になったらすぐにローンを組んで車を買うのが当たり前で、イキがってる奴は外車を買った。ところが、今の新入社員は入社から4か月経った今でも、誰一人として車を買っていない。理由を聞いたら、逆に『どうして車が必要なんですか』と聞かれたよ。いや~、驚いたね」

「若者のクルマ離れ」が言われて久しい。

総務省全国消費実態調査」によれば、30歳未満の仕事を持つ単身男性の車普及率は1999年には63.1%だったが、2009年には49.6%に減少している。

「若者の海外旅行離れ」を物語るデータもある。法務省出入国管理統計」によれば、日本人の海外旅行者数がピークだった2000年に20代の海外旅行者数は418万人だったが、2011年は281万人(震災前年の2010年は270万人で、さらに少ない)。

この他、「若者の高級ブランド品離れ」もよく指摘される。車、海外旅行、高級ブランド品。こうした高額商品を、今の若者はかつての若者ほど買わなくなった。その背景には、言うまでもなく雇用の悪化がある。

総務省「労働力調査」によれば、男性の非正規雇用者の比率は、15~24歳で1990年に20.0%だったのが、2011年には49.1%へと跳ね上がっている(2011年は岩手、宮城、福島の3県を除く)。ニッセイ基礎研究所生活研究部門研究員の久我尚子氏が話す。

「正社員でも、昔は50代後半まで給与が上がり続けたのに、今は40代で頭打ち。今の若者はそれを見ているので、借金してまで高額商品を買うという感覚がないのです」

実は、内閣府「平成23年度国民生活に関する世論調査」によると、20代の73.5%が今の生活に満足しており(「満足」が12.9%、「まあ満足」が60.6%)、この割合は他のどの年齢層よりも高い。2番目に高いのは70歳以上で、「満足」と「まあ満足」を合わせて70.9%。

「若者は将来に不安を抱え、老人の将来は長くはありません。ともに今より幸せな将来を想像しにくいので、今を楽しむしかないのだと思います」(久我氏)

影響[編集]

こうした動向は自動車関連の産業や業界に多大な影響を及ぼしている。特に若年層をターゲットとした自動車および関連商品の売れ行きが急激に落ち込み、各社の経営にダメージを与えている。

バブル景気崩壊以降の日本国内における自動車販売台数が落ち込みつつある中、1990年代後半辺りから若年層の人気はスポーツカークーペから、SUVミニバンへと変化し、各自動車メーカーは同調してこれらの車種に力を注ぎ、売り上げを確保していった。しかし、2000年代前半辺りから時代の流れで車を持たない若者が増加し、各自動車メーカーは経営戦略上、非常に難しい局面に立たされることになった。

また、ガソリン価格の高騰も事態に拍車をかけている。2007年後半辺りから投機マネーの流入により原油高騰が顕著になり、ガソリンは一時1リッター200円に迫るほどまで高額化した(2008年8月頃)。これにより維持費がさらに嵩み、若者だけならず幅広い世代で全国的な車離れを及ぼし、2008年前半は一部の軽自動車を除き自動車保有台数が減少し続けることになった。

この流れは自動車用アフターパーツ(マフラーなど)業界においても深刻な影響を及ぼし、2008年9月10日には自動車用チューニングパーツ製造販売大手のトラストが経営不振に陥り、民事再生法適用申請をするにまで至った。損害保険会社においても、この影響で自動車保険料収入が悪化。従来から若者が加入する場合は危険率(事故率)の関係で保険料が高額に設定されており、維持費を高める要因の1つになっている。さらには自動車教習所の運営にも影響し教習所が倒産するなどの事態も起きている。

購入対象車種の変化と自動車メーカーの責任[編集]

2009年10月19日の毎日jpのコラムにて、トヨタ自動車幹部による、「リアルな自動車ゲームがあれば車は要らなくなる」という主旨のコメントが掲載された。

しかしその一方、悪いのは自動車メーカーおよびその製品ラインナップであると指摘する向きもある。ガリバー自動車研究所所長は「(確実に)売れるミニバンや軽自動車ばかり作り、スポーツカーなどの魅力的な車を作らなくなったメーカー側に問題がある」と述べているほか、自動車評論家島下泰久も「行き過ぎたエコ偏重の商品作りが車本来の楽しさをドライバーから奪い、結果として車離れを加速させている」と指摘している。また、前出のトヨタ幹部の意見に対しソニー・コンピュータエンタテインメント広報は「車のゲームをきっかけに、実車に興味を持つ人がいると聞いている」と、否定的な態度をとった。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]